21/恋慕の一頁をめくれ ページ21
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【晋助視点】
「食ってはダメだ! 握るだけにしろ!」
「何が楽しいんだそれぬちゃぬちゃすんな!!」
「あ、すみません。もう食べちゃいました」
「松陽ォォォ!?」
バカみたいなやり取り。バカみたいな奴ら。
他の場所では絶対に知りえなかった、見えなかった光景がすぐ目の前にある。俺が今立っているこの場所は、思っていた通り自由で"リード"のリの字も存在しない思うままの世界があった。
あの時、あの場所であのバカに出会っていなければ。
これを知ることは無かっただろう。
「っふ、ははは」
俺は、大口を開けて笑った。
この日、人生で一番笑った。
───この日、人生で初めての感情を知った。
今後一切、"ソイツ"以外に芽生えることはないであろう。そんな感情を。
◇◇◇
「にゃー」
「おぉっ、肉球だ!」
縁側で身体を休めていたところに、バカ猫がやって来た。
右隣の桂だけが歓喜の声を上げ、バカ猫に飛び付くが華麗にかわされる。顔面から廊下に滑り込んだ桂を見ていられず鼻で笑うバカ猫に目を移した。
バカ猫は口に何か咥えていた。
「ガーゼ持ってくな銀!」
バカ猫を追うように駆けて来たのは、俺達に休んで行けと言った張本人だった。
「って。コイツ何で倒れてんの」
「バカのことは気にしなくていい」
「ふーん」
魂抜けかけの桂を興味無さそうに一瞥し終えると、仏頂面で俺の隣に腰掛ける。
女っ気のないドサッなんて荒い座り方。女っ気のない無造作な髪の毛。女っ気のない男勝りな性格。やっぱり、本当に女かどうか疑いたくなるような女だ。
「お前、手当しに来てやった私に対して失礼なこと考えてないよな」
「あァ。男みたいだなとは思った」
「銀、そのガーゼ切り刻め」
「にゃん」
「待て、男勝りでライオンのように勇ましい女だと思ってた」
なるべくいい表現にかえ、そう伝えた。
「……結局は男みたいってことだろ。まァ言われ慣れてるから気にしないけどさ」
呆れたふうに息をつかれた。
思えば、力の抜けたコイツの横顔を初めて至近距離で見つめた気がする。
今までは、怒った顔、叫んでる顔、大体が不細工だった。
でも今は、とても穏やかだ。
すげェ、女っぽい。
「次はまた私が勝ってやるからな」
「……」
「だから、明日もやろうね。高杉」
「───っ!」
ドッ、
と。心臓が大きく跳ね上がった。
初めて拝んだAの笑顔は想像よりもずっとずっと、綺麗だった。
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佑依佳 - すごく良かったです。パスワードを教えてくれませんか (4月15日 10時) (レス) id: 4b4e019a12 (このIDを非表示/違反報告)
LIARPIERROT(プロフ) - こちらの作品のパスワードは作者様が作者ページに掲載してらっしゃいます。確認してからコメントしましょう。 (12月21日 20時) (レス) id: 7068d0a9b2 (このIDを非表示/違反報告)
茜 - 初めて読みました。とても感動して続きを読みたいと思いました。なので続きを読ましていただきたくパスワードを教えてくれないでしょうか?これからも頑張ってください!! (11月19日 15時) (レス) id: fd0a1b2f31 (このIDを非表示/違反報告)
菖蒲 - 続きを読みたいのですが、パスワードを教えてくれませんか? (10月20日 12時) (レス) id: de6a447dfa (このIDを非表示/違反報告)
白虎 - 続きを読みたいのですが、パスワード教えてくれませんか? (8月16日 23時) (レス) @page3 id: ec81a6d504 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:糸針 | 作成日時:2018年9月21日 23時