禽も困しめば車を覆す

第五部 綻び ページ26

相変わらず不調の日がつづいていた。

身体的にも精神的にも不安定で。食欲もなく無性に泣きなり声を上げて涙を流し、それに疲れてただ眠る日々。

あれだけ努力して頑張っていたのに外に出るのも苦痛で、自分の呼吸音すら煩わしく聞こえて頭が揺さぶられるくらいの音量でクラシック音楽を聞き、カーテンも締め切って暗黒時代の五年間へ引き戻されたような生活。

大学が行っているオンライン授業のおかげでなんとか出席出来ている状況だった。

ただその中でもAはQuizKnockのウェブサイトにアップする記事、新たに任された朝knockや常識knockは滞りなく提出していた。

QuizKnockのメンバーに同じ学年、同じ学部の人が居ないからこそ誰にもバレないで出来ていると思っている。


「彼らに心配を掛けたくない」
「迷惑を掛けたくない」

Aはそんなことを思ったことはない。そんな、他人に優しい理由で体調不良の中無茶をしている訳では無い。

自分のためにQuizKnockの人達に、他人に、自分の弱いところを見せる訳にはいけないだけなのだ。

カーストの一番低いところに位置するAが弱っているところを見せるということは、それこそ弱肉強食の世界で食べてくれと言ってくれと言うもんだと思っている。

今まで地道に築いてきたものを、こんなことで壊させる訳にはいかない。

ふらつく頭で立ち上がり何とか洗面台に立つ。

『…ほんとに、気持ち悪い顔…』

鏡をみるいつもの自分の青白い顔は、更に顔色を悪くしていてそこら辺のB級のお化け屋敷のお化けよりよっぽど不気味だ。

誰よりも見てきただろう自分でさえ笑ってしまうくらいに。あいつに言われ、嘲笑われた言葉を自分で呟いてしまう。

こんな顔を外に見せずに済む昨今の情勢に不謹慎だが少しだけ感謝してしまって、尚更笑けてきた。

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