50＆移行のお知らせ ページ50
リハーサルが終わって教室に戻ってからすぐに、私たちは壊れた大道具の修理に取りかかった。
「どうやって補強する？」
「ガムテープとか？」
「確か昨日でなくなったと思う」
「私、他の用事もあるからついでに買ってくるね」
「私もついていく」
みんなが紬に続いて教室を出た後、その場には私と佐倉くんの二人が残された。
「どうする？今から」
「すること、ないよね……」
それから私たちは、他愛のない話ばかりして時間を潰した。
勉強のこと、部活のこと、Snow Manのこと。
いつも通り昼休憩にしゃべっていたし息つく暇もなく話し続けたのに、話題は全然尽きないどころか、むしろどんどん溢れ出てきた。
紬たちはすぐに帰ってきたと思ったら、ガムテープ二つとレシートを置いて「塾の時間だから」とそそくさと帰ってしまった。
残りの子たちも紬と同じ塾に行っているらしく、一緒に帰っていった。
再び教室には、私と佐倉くんの二人が残された。
それから私たちはすぐに、作業に取りかかった。
二人でさっきの話の続きをしながら、時には笑い合いながら手を動かしていった。
苦手なことも佐倉くんが隣にいたら、何だか上手になった気分だった。
「ここ、絵の具取れてる」
「塗り直すか。俺今無理だから、やって」
「分かった」と返事したはいいものの、元の絵を思い出しながら塗っても、全然違うものになっていくのが分かった。
でも、佐倉くんの期待に応えたくて、一生懸命筆を動かした。
「どんな感じ？」と佐倉くんが様子を見にきた。
「えっと、ここが空で、これが木」
佐倉くんはしばらく考えた後、「ちょっと貸して」と急に絵筆に手を伸ばしてきた。
手と手がもろにぶつかった。
驚いた私は、筆を持った手を引いてしまった。
佐倉くんは少しバランスを崩したまま真横にあった壁に手をついて、失敗した壁ドンみたいに中途半端な姿勢になった。
身長差もあって、私は佐倉くんに完全に覆い隠された状態のまま、至近距離にある佐倉くんの顔をまじまじと見つめた。
何これ、このシチュエーション……。
ただの青春とかいうレベルじゃなくて、本当に青すぎる春を鮮明に感じた。
そのつもりはなかったにしてもイケメンから壁ドンされるなんて、まるで出来すぎた漫画のワンシーンのような状況に、胸の高鳴りが抑えきれなかった。
オレンジの光が、二人きりの空間を優しく包んで見守ってくれていた。
〜作者より〜
ここまで読んでいただきありがとうございます。
続編もお楽しみいただければうれしいです。
続編→サクラソウの花言葉�供�silent】
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