49 ページ49
気づけばあっという間に、文化祭の前日。
あたふたと準備を進めたけれど、まるで終わりのない作業であるかのように感じた。
結局私と佐倉くんは、ずっと大道具を手伝っていた。
役の方はノータッチで練習風景もあまりしっかりとは見れなかったけれど、何だかすごそうなものになっているような感じだった。
リハーサルの順番が近づいてきて、完成した大道具をみんなで体育館へと運んでいった。
役が割り当てられている人や音響、照明担当の人はは先に体育館に向かっていたから、教室に残っていた少ない人数で大きくて重たい大道具を運ぶことになった。
教室と体育館の間を、途中に階段を挟みながら何往復もした。
でも、みんなで協力して作ってきたものの大きさがありありと感じられて、文化祭はまだこれからだというのに充実感さえ覚えた。
最後に残った一番大きい大道具を、今いる全員で持ち上げた。
細かいところまで描かれた木や花、鮮やかな青い空と真っ赤な太陽。
そんな素敵な世界が、一枚の段ボールの上に広がっていた。
平面に描かれた絵が、目の前に浮かび上がってきそうだった。
「階段あるから気を付けて」と紬が段ボールの向こうから言うのが聞こえた。
慎重に階段に足をかけて、足元が見えないままそろそろと降りた。
あと少しで階段が終わるというところで、ビリッと何かが裂けたような音がした。
バランスを崩さないように注意しながら確認すると、段ボールの裏に貼ってある支えの一部が剥がれそうになっているのが目に入った。
「後ろの支えの部分が外れかけてる」
「どこどこ？」
「今は危ないから、体育館着いてからにしよ」
とにかく急いで体育館に大道具を運び込んで、薄暗い空間の中でどこが壊れているのかチェックした。
「ここ？」
「たぶん。一旦立ててみる？」
「分かったん。せーのっ！」
普通に立つじゃん、と思った瞬間、支えのない方向、つまり私のちょうど真上から落ちてくる茶色い物体が目に入った。
逃げなきゃと思ったのに、なぜかその場から一歩も動けないまま、視界が暗くなっていくのをスローモーションでも見るような気持ちで見ていた。
「危ない！」
突然聞こえた声に、ビクッとした。
それと同時に段ボールの落下が止まった。
「大丈夫？」
「……うん。ありがとう」
「こいつまで落ちてくるとは思わなかった」
「うん。これも、支えないと倒れるよね」
「そうだな。リハの間だけ後ろで支えて、終わったら修理しよう」
「うん」
何も言わなかったけれど、気づけば二人で段ボールを支えていた。
暑かったけれど、この狭い空間がすごく快適だった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 517人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
