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家に帰ると、珍しくもうお母さんが帰宅していた。
「ただいま」
「おかえり」
「楽しかったー！」
「Aがそんなに楽しそうにしてるの、久しぶりに見た気がする」
「そう？」
「うん。ある時からずっと、死んだ魚みたいな目しかしてなかったし、学校だってとりあえず行ってます感があったんだよね。でも、最近は学校も楽しそうでよかった」
「今が、一番楽しいかも。遊園地って今まで行ったことあったっけ？」
「全然行ってないよ。友達と行ったの？」
「うん。すごい楽しかった」
「Aの友達ね……。会ってみたいな。どんな子か、気になる」
「それはちょっと……」
「何？会わせられない事情でもあるの？あ、晩ご飯あるから適当に温めて」
自分の食器を洗いながら、お母さんがそう言った。
紬はいいけど、佐倉くんは……。
お母さんに勘違いされるに決まってるけど、今はそういうわけじゃないし……。
晩ご飯を電子レンジに入れながら、頭の中は佐倉くんのことでいっぱいだった。
二学期の始業式の日、私はいつも通り紬と学校に行くつもりで、最寄り駅にいた。
でも、紬は時間になっても来なくて、諦めて一人で電車を待っていた。
今日は休みなのかな。
一人で乗る電車がこんなにもわびしいものだったなんて、しばらく忘れていた。
それほど紬の存在が大きかったことに、改めて気づかされた。
改札を出たところで、背後から「おはよう」と声が聞こえた。
びっくりして振り返ると、そこには佐倉くんがいた。
「あっ、おはよう」
「青羽一緒じゃないの？」
「うん。時間になっても来なかった。休みかな」
「青羽が休むなんて、珍しい。初めてだよな」
「だよね。佐倉くんも、この時間珍しくない？」
「今朝寝坊したから、朝練サボった」
「そうなんだ」
少し歩いただけで汗が流れる外を、ゆっくり歩いた。
言葉なんて、いらなかった。
信号待ちで、ふいに佐倉くんが「楽しかった」とつぶやいた。
「何が？」
「Aと行った、遊園地」
「私も、佐倉くんと行けてうれしかった。ありがとう」
「俺の方こそ、ありがとう。楽しかった。本当に」
恋愛ドラマの一コマみたいな状況に、脳が追いついてこなかった。
佐倉くんは涼しい顔をしているけれど、隣の私は大パニック。
授業中も佐倉くんをぼうっと眺めているうちに、今更だけど気づいた。
私、佐倉くんのことが……。
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