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こうして迎えた、高校生活最初の夏休み。
取り立ててすることもなかった私は、ひたすら部活に打ち込んだ。
そのおかげで、札もある程度覚えられた。
ある日紬に、「A、かるた会行かない？」と誘われた。
「かるた会って、紬が行ってたところ？」
「うん。かるた始めたばかりの子もいるからいいかなって思って。試合やってみる？ルールとかは私が横で見てるから大丈夫」
「今から？」
「ううん、今日の夜。七時から九時ぐらいまでだから、晩ご飯は食べてからの方がいいかも。格好は、部活の格好でね」
「分かった」
紬と待ち合わせした場所で紬を待ってから、二人で会場へ向かった。
二十階ぐらいはありそうな高層ビルの自動ドアを抜けると、誰もいないエレベーターホールに着いた。
慣れた手つきで十階のボタンを押すと、エレベーターは音も立てずに一瞬で私たちを目的地まで運んだ。
鈍色の扉が開いた先には、いくつもの部屋がホテルみたいに並んでいた。
そのうちの一室の茶色いドアを、紬が開けた。
「こんにちはー」
「こんにちは。今日は誰がいる？」
「今日、新しい子がいるんです」
「そうなの？入って入って」
靴をそろえて脱いで、紬の後に続いて初めての空間に足を踏み入れた。
「初めまして」
「初めまして。かるた会の運営をしている穂田ゆかこです。この紙に、名前と読み仮名書いてね」
渡された紙とペンで、バランスを考えながら慎重に名前を書いた。
「ありがとう。かるた初めてすぐ？」
「はい。部活で今年から始めました」
「なるほど。紬ちゃん、今日あの子来る？」
「どうなんですかね……。私はもうすぐ来ると思います」
ガチャッとドアの開く音がして、後ろを振り向いた。
「噂をすれば、だね」
「本当ですね」
「……こんにちは」と言いながら畳の上に上がってきた子が、私たちの方へ近づいてきた。
「誰？」とでも言いたげな視線で、その子が私を見つめた。
「二人、初対面だもんね。自己紹介したら？」
お互いぎこちない雰囲気のまま、名前と年齢だけ伝えた。
さっきの子は、田畑利空くんという小学五年生の男の子らしい。
五つも年下だけど、私よりも物静かで大人な雰囲気を醸し出していた。
「田畑くんって今年の部活からかるた始めたんだっけ？」
「はい」
「Aと同じだね。百枚覚えた？」
「ギリギリぐらいです」
「二人で試合やってみたらいいと思うけど、どう？横で見てるよ」
「私も横で見ておこうかな」
二人からそう勧められて、私たちはゆっくりとうなずいた。
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