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一音目が聞こえたかどうかのタイミングで、二人とも手のひらで自分の札を囲んだ。
今まで相手に近い方の札を狙っているような感じはしたけれど、最後は違うものなのかな。
最後、紬が静かに手元の札を回収して、「ありがとうございました」と流れるように美しい動作でお辞儀をした。
最初に感じたのは、終わってしまったんだな、という喪失感。
その後に来たのが、夢のような世界の断片を見たかのような充実感と、感動。
この試合最後のボタンを押して、最後の下の句の音声を聞くと、みんなが拍手をした。
私もつられて、小さく手を叩いた。
その後紬と先輩は、それぞれ取った札を五枚ずつセットにして畳の上に置いた。
「ここだけ四枚だから最後の一枚と合わせたら、ぴったりだね」
「五十枚ありますね」
どうやら、札が五十枚あるかを確認しているみたいだ。
札がなくなってしまっていても、この時に気づけるようにするためなんだろうか。
札を一つの山にして二人の中央に置き試合前と同じ状態にした後、もう一度「ありがとうございました」とお辞儀をした。
それが終わった瞬間、緊張の糸がプツンと切れたみたいにみんなワッと話し始めた。
さっきまであんなに張り詰めていた空気が嘘みたいに、あちこちから笑い声まで聞こえてきた。
みんなはもう現実の世界に戻っているのに、私だけが現実とかるたの世界の狭間にいるような気分だった。
時計を見ると、試合開始から一時間以上経っていた。
そんなに長い時間ずっと試合を見ていたのに、疲れは一切感じなかった。
それよりも、言葉にできない美しいものが、私の全てを捕らえて離さなかった。
その日から私は、勉強そっちのけで部活に打ち込んだ。
早く紬に追いつきたい気持ちもあったけれど、それ以上にかるたがとても楽しかった。
ひたすら札を覚えるだけじゃなくて少しだけ札を払う練習をしたり、決まり字の書かれた札を使って試合もどきをやったりした。
できることが増えていく度に、紬はいつも「すごいね」と言ってくれた。
紬の方が私の何倍もかるたは上手だし、私の練習に付き合ってくれている立場なのに。
でも、そうやって褒めてくれるのがうれしくて。
今まであまり褒められた経験がなかったからこそ余計に、「すごいね」と言う紬の弾けるような笑顔が忘れられなかった。
テスト期間は部活停止だけど、私はそんなことは関係なしに古典の勉強だから、と言い聞かせて家で決まり字を覚えていた。
かるた部って古典できそうなイメージだもんね、と自分を納得させながら。
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