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「Aちゃん、遅くなってごめん。帰ろう」
片づけを終えた青羽さんが、何もしていない私のところに駆け寄ってきた。
「わざわざついてきてくれてありがとう。私も途中からやってて、ただそこにいさせただけになっちゃってたけど」
「いえ、大丈夫です」
「よかった」
「あの、青羽さんって競技かるたやっているんですか？」
「うん。小6の時からかるた会っていう、お金を払ったら色んな人とかるたができる場所に行ってて。さっきいた先輩たちとも、そこで知り合ったんだよね」
だから、あんなに仲良さそうだっんだ。
青羽さんは社交的だから、すぐに仲良くなって一緒にかるたもしていたのかな。
「あ、私のこと紬って呼んでくれていいよ。青羽さんって呼ばれ慣れない感じだし」
「いいんですか？」
「もちろん。敬語もなくていいし。あと私もAちゃんのこと、Aって呼んでいい？」
「うん」
「よかった〜。A、あんまりみんなとしゃべってるの見ないから、私とも話してくれないかなって心配してたんだよね、最初」
「確かに。自分から話しかけにいくのが怖くて。こうやって積極的に話しかけにいける青羽さ……紬は、すごいと思う」
「まあしゃべりすぎるのはうるさいから、あんまりよくないけどね」
「そうだね」
並んで歩く私たちの背中を、沈みかけた夕陽があたたかく包んだ。
2つの長い影がだんだん闇に侵食されていく中、私たちは一緒に校門を出た。
他愛もない話をしながら、帰宅する。
そんな一見ありきたりに見える時間が、私にとっては特別で最高に幸せだった。
しかも最寄り駅が同じで、意外と近くに紬が住んでいるんだと思うと、すごくうれしかった。
「私家こっちなんだけど、Aは？」
「私はこっち」
紬とは真反対の道を指さした。
「じゃあ、これでお別れだね。あっ、その前にLINE交換しない？」
忘れていた。
新学期の地獄は、自己紹介だけではなかったことを。
自己紹介に関してはまだ共感してもらえる余地はあるにしても、もう一つは日本の高校生からしたら絶対に共感してもらえないだろう。
「……私、スマホ持ってなくて」
そのせいで、今までどれだけ苦労して、辛い思いをしてきたか。
数え出すと、キリがない。
高校生のスマホの所持率は98.7%だと、どこかで聞いたことがある。
共感してもらえないのも、無理はない。
だからこそ、紬の対応には驚きを隠せなかった。
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