12 ページ12
「昼は〜消えつつ〜物をこそ〜思〜へ〜」と、突然、真近くから声が聞こえた。
びっくりして辺りを見回すと、どうやら声はその茶色の箱から鳴っているみたいだ。
何が起こるんだろう、と思っていると、少し間が開いて次の音が聞こえる瞬間、全員がほぼ同時に札に手を伸ばした。
しかもただ伸ばすんじゃなくて、とてつもないいきおいで、まるで畳を叩くかのように腕を振る。
バン！という音とともに、大量の札がパッと宙に舞う。
そのうちの1枚が自分の方へ飛んできて、慌てて受け止める。
「われてもすゑにあはむとそおもふ」と書かれた札を、取りにきた人にそっと渡した。
全員が手を下ろした後、さっき自分の手元にあった札に書かれていた言葉と同じ音声が流れた。
私はただ見ているだけだけど、何だか壮大な世界にいるようだということだけは分かった。
奥の方にいる紬ちゃんも、ものすごい速さで札を飛ばしていた。
私は張り詰めた空気を味わいながら、真剣なみんなの姿を眺めていた。
1秒以下を争う、美しくも熾烈な争い。
静と動の対比が、気持ちいい。
しばらく時間が経って札が減っていくと、「ありがとうございます」とお互いお辞儀をしているのが見えた。
「あ、全部終わった？」
「うん」
「今日はここまでで解散でいい？」
「いいと思う」
「札数えて片付けしたら、今日は終わりで」
「了解」
何をしたらいいか分からなくて足元の座布団を持って立ちすくんでいたら、「それもらうね」とさっきの緑のTシャツの人が座布団を回収してくれた。
「ありがとうございます」
「長い時間見てもらっててごめんね」
「いえ、楽しかったです」
これは、本心だ。
「それならよかった。興味あったら入ってくれるとうれしいな」
「考えておきます」
即答してしまったけれど、よかったのかな。
立場上連れてこられた側だけど、せっかく誘ってくれた青羽さんをおいて一人で帰るのは気が引けた。
でも中にいるのは邪魔になりそうで、靴下についたイグサを払ってから靴を履いて外に出た。
夕陽の眩しさに、思わず顔をしかめた。
西を向いてしまったから、当然なんだけど。
空には、飲み込まれてしまいそうなほど巨大なオレンジ色の夕陽が輝いていた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 516人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
