無能流子育て【d!】【番外編】

無能流子育て。 ページ4

【ぐるさいど】

　うちの無能が眠ってから5年。俺の心はまだ穴が開いている。――何故? 鬱の抜けた仕事は鬱の部下で埋めた。鬱よりも有能な部下。仕事もはやく、ミスも少ない。――でも、足りない。どうして? 鬱の寝顔を見ていると悲しくなる。会議室の誰も座らない鬱の椅子を見ると心が締め付けられる。鬱が眠ってからずっと悲しそうなAを見るのが辛い。辛い事が多すぎて、何が何だか分からなくなる。
　――俺は、何が辛いんだ。今日も国は平和だ。幹部も全員が生きていて、国民の不満の声も少ない。なのに何で……。俺はゆっくりと鬱の部屋に入った。普段なら絶対に入らない部屋。5年間入っていない為、埃臭いし染みついた煙草の臭いがする。クモの巣も張っているし汚い。けれど何故かこの部屋がとても安心できた。


「……これは」


　鬱のデスクの上には昔買ってやったパソコン。誕生日に貰っていたジッポ。彼がよく吸っている煙草。それに紛れて1つの写真立てがあった。色あせた写真には鬱と女とAが映っている。きっと鬱の隣の女は鬱の妻であり、Aの母なのだろう。優しく微笑んでいる姿が昔孤児院で見たシスターと重なった。思えば彼女が鬱の女好きの原因なのではないのだろうか。写真をそっと抜き出し、裏面を覗く。其処には鬱の妻の没年が書かれていた。奇しくもそれは6年前の今日。何か関係があるかもと思った自分を鼻で笑い、部屋を出る。


「……お前の居ない世界は寂しいゾ」


　天を仰ぎ、自室へと戻る。やっぱり自分には彼が必要だった。

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