【路地裏の百物語】浮世の沙汰は諸行無常【派生作品】 (ページ9)

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　資料には空き部屋の4階の404号室にて物音や気配がする、という内容。明らかに数字が狙っているとしか言えないため、これは幽霊か何かかなとあたりを付けた地蔵だった。

「何かありましたら御連絡を……そうでした、たたり地蔵さんはスマホをお持ちではなかったのですね」
「せやねん。でも何かあったらこのマンションの管理人はんの家から沢子はんのスマホに電話するさかい、そん時はよろしゅうお願いします」

　知らない番号だから着信拒否されないことだけを祈るが、仲介者としての仕事をする沢子のためそれはないだろう。ないと、思いたい。
　玄関に降りた地蔵は戸を開いた。途端に聞こえてくるのは早朝だというのに元気に鳴き喚いている蝉の声。ここ数年は猛暑が続いているために蝉も日中は鳴く元気がなく、朝夕の涼しい時間帯に恋人を求めて鳴いていることが多い。

「ほな、沢子はん、いってきます」
「いってらっしゃいたたり地蔵さん」
「じぞーちゃんいってらー」

　聞こえてきた第三者の声に、地蔵は振り向けば欠伸を噛み殺しながら地蔵に向けてひらひらと手を振る景がいた。無事にエネルギー摂取、基(もとい)食事を取れたのか動けるまでに回復したようだ。

「いってきますわ景はん」
「おー……」

　あの様子だとまだ眠り足らないという風に見えるが、地蔵が依頼に出ると知って無理矢理起きたのだろう。なんとも他人思い、いやこれは多少語弊が存在する。彼はどこまでも怪異を中心にして行動する人間のため、その理念の元、眠い目を擦って挨拶に来たに違いない。
　すっとお辞儀をした地蔵は戸を閉めて踵(きびす)を返した。見えなくなった二人だが、まだ玄関にいるのは気配でわかる。沢子が景にもう少し眠ったらという会話を戸口越しに聞きながら地蔵は沢子お手製に地図を手に、依頼の場所まで向かった。

　場所は地図の通りボロ家の近所だった。築30年程の6階建てのマンションで、部屋数は30。経年劣化ゆえに白い建物の側面にはひび割れが少し目立っていた。掲示板には近々補修工事を行うとかなんとかと書かれている張り紙や、ゴミ収集の曜日などが掲載されていた。
　地蔵は1階の101号室にいる管理人に依頼を引き受けにきた旨を伝えるため、インターフォンを鳴らす。

「……」

　だがしかし、今は早朝6時。沢子達とのやりとりと移動時間を考えても時刻は6時半頃だろう。