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灼熱の太陽が元気良く己の仕事を全うしているなか、地蔵と絲の二人はボロ家のある路地裏へと到着していた。
時刻は昼下がり。一日の内、一番暑い時間帯に差し掛かろうとしている時分。というのに汗一つかかない二人。怪異ゆえなのか、それとも発汗機能がないのか。それはまたおいおい。
ガラガラと引き違いのドアを横にずらした地蔵は玄関に誰か立っていること気付いた。景である。
「景はん」
「ん? あぁ、地蔵ちゃん……と、絲ちゃんか。こんにちは。珍しい組み合わせだね。なに? もしかして、地蔵ちゃんと絲ちゃんでデートでもしてたの?」
靴を履こうとしていた手を止めて挨拶してくる景の二の句。からかいではなく、純粋に不思議そうに尋ねてくる景に地蔵も絲も目を瞬かせて互いを見た。
確かに、言われてみれば世間一般的なことを踏まえると地蔵と絲はデートしたことになるかもしれない。かもしれないが、実際はただ買い物をしただけ。もっと言えばタイムセールスを勝ち抜いて買い物をしただけである。
「景はん、こんにちは。絲はんとデート……。うーん、デートと言えばある意味デートやもしれまへんけど。ちゃうといえばちゃうし……。絲はんはどう思われます?」
「こんにちは、景さん……。お地蔵さんと、いと。ヴィシソワーズを作るためのお買いもの、してたの」
景の視線が地蔵が持つビニール袋に移る。戦利品ではないが、材料が入ったビニール袋は色々入っているためパンパン。
「結構買ったんだね」
「せやね、玉ねぎとじゃがいも二袋買いましたし」
「へぇ……」
口元を若干引きつらせた景は話題を変える。というよりは玄関口で話し込むのはよくないため、二人を早々に招き入れた。
靴を脱ぎつつ会話をする地蔵。
「そういえば絲はん、そのびしそわーず? ここで作られるん?」
「……ううん。でも、お地蔵さん手伝ってくれたから。……お礼に御馳走したいから、ここでいいよ」
「ほんまでっか」
「景さんも、いかがですか?」
ぴくりと景の肩が跳ねた。
「え、俺? あー、うん。すっごく嬉しいけどさ、このあとちょーっと用事があってね、うん」
目が泳いでいる。そして若干冷や汗もかいている。
「……そっか」
「……」
しょんぼりとする絲に、地蔵はじとりとした目で景を見上げる。その目は訴えていた。御相伴に預かるべきだ、と。
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作者名:翔べないペンギン | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/Information/
作成日時:2021年7月21日 17時