【路地裏の百物語】浮世の沙汰は諸行無常【派生作品】 (ページ28)

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　そんな愛猫の懐かしい夢を見ていたＬだったのだが劈(つんざ)く程の悲鳴に思わず飛び起きた。目を白黒とさせ、扉の方を向く。まるで猫が尻尾を踏まれた時のような、そのような悲鳴。

「ッワタリ！」

　ということは愛猫の危機、と導き出したＬは頭に安全第一と描かれたお馴染みの黄色いヘルメットを装着。右手には上司や客先との接待のために購入しざるおえなかった高いゴルフクラブを。部屋の明かりを付けてパジャマのまま自室のドアを勢いよく開けて廊下へ出た。

「あ、Ｌはん.。うるさぁして申し訳ありまへん」

　廊下にいたのは来た時と同じ格好をした地蔵が、にこやかに挨拶をしてきた。もがき苦しむ猫に膝十字固めをお見舞いしながら。

「は？え？」
「もうちょいでお宅のニャンコから悪い幽霊みたいなもん出せるんで、ちょっと待っといてくださいね」
「ギブギブギブギブ!!」

　Ｌは目が点になっていた。且つ、目の前の光景に思考が追いつかないでいた。
　あれ、おかしいな。なんかうちの猫にプロレス技掛けられているんだけど。猫の関節ってあそこまで曲がるんだ。というよりなんか喋ってない？「ギブギブ」って言っている気がする。あれ？そして薄っすら見えるあの白い少女なに？いつきたの？微妙に浮いているように見えるのは俺が寝ぼけているから？
　ありとあらゆる疑問がＬの思考を駆け巡る。そして出した決断は。

「いやなんでうちの猫にプロレスかけてんの!? なんでうちの猫喋ってるの!? それとその少女誰!?」

　簡略化してつっこみを入れる、というものだった。

「ナイスつっこみですわ、Ｌはん。ソロでも活動できまっせ」
「いやじゃなくて！」
「あ、もうちょい強くした方がいいです？よいっしょっと」
「ぎゃああああああ!!!!」
「……」

　中身が石である地蔵が少し力を強めれば、途端に汚い高温の悲鳴が猫の喉から漏れ出た。数秒程廊下に響き渡ったが、程なくしてがくりと反応がなくなった。気絶してしまった。

「ワタリ！っジローちゃんなんて酷いことを！」
「酷いんはこのニャンコに取り付いた幽霊ですよ、Ｌはん。あんさんのこと呪い殺そうとしておったみたいですから。じゃあワタリはん、どうぞ。身体を取り返してやってくだせぇ」

　意識が落ちた猫から技を解きながら地蔵は宙に漂う少女に言う。少女はゆっくりと猫に近寄るが、Ｌがそれを許さなかった。