【路地裏の百物語】浮世の沙汰は諸行無常【派生作品】 (ページ25)

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　さて、と地蔵は借りたパジャマから元の袈裟へと着替えて古びたリュックを背負い、極力足音を立てないように案内された客間から廊下に出た。
　地蔵きってのお好み焼きである夕食を済ませ、夏の特集によって地上波で放送されている映画を二人と一匹で視聴したあと歯を磨いて就寝。であったが、予(あらかじ)めワタリと夜中にという約束をしていたため頃合いを見て動き始めたのだ。
　時刻は夜中の1時。子の刻である。

「ワタリはん」
「遅いです。5分遅刻ですよ」
「堪忍な」

　Ｌの部屋の前にいたのはワタリである。暗い廊下でもその琥珀の瞳ははっきりと見えていた。不機嫌そうに尻尾をゆらゆらと左右に動かすワタリに軽く頭を下げて謝罪を一つ。

「それで、なんでしたっけ？れい？」
「レイスです」
「そうそれ。レイスってワタリはんが言うには夜中に出るんやろ？自分、探知はそこまで悪うないんやけど、なんも感じひんわ」
「当たり前です。まだいませんもの」

　ずこっとその場で転けかける地蔵。音はちょっとフローリングが軋んだ程度であったが、Ｌが起きるかもしれないためそっと息の根を潜める一人と一匹。
　ドアをそっと開け、団子のように中を覗くが起きた気配はなく。音を立てないように静かにドアを閉めるのであった。

「ふざけて遊ばないでください」
「いや、つい関西人の性(さが)が」
「どうでもいいで……ッ、来ました」

　眉間に皺が寄る。確かに何者かが進入したような、新たな気配が増えたような感覚があるが一つの疑問点が生じる。どうやって入ってきたか、というものだ。家というものはある種の結界の役割を果たす。招かれない限り、邪の物は普通ならば入られない。というのに、いったいどうやって入ってきたというのだ。
　廊下の先から見えたのは白いドレスを着た黒髪の少女。フローリングに足を付けることなく、空中で漂うかのようにこちらにやってくる。
　地蔵の足元にいたワタリは威嚇するのように全身の毛を逆立てて、尻尾を真っ直ぐ立てていた。
　重力を感じさせない──実際浮いているレイスはふわりふわりと漂い、地蔵とワタリの手前までやってきた。温度を感じさせない目で身長も体長も小さい地蔵とワタリを見下ろす。

「ここにこないでと何度言わせるのですかッ」
「……」

　ゆっくりと瞬きをするレイスはじっとワタリと地蔵を見下ろすだけ。攻撃をしてくる様子はない。