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Ｌが愛猫を語ること約1時間。紅茶は既に2杯目を飲み干し、3杯目へと突入している地蔵。テーブルの上のお菓子も残すことなく地蔵の胃袋の中に消え失せた。茶請けがないためちびちび紅茶を飲みながら彼の声をやや右から左に。だが、トテトテとフローリングを小さく叩く音が僅かながら地蔵の耳に聞こえてきた。
「みゃー」
「！ ワタリ！」
写真の通り灰色のふわふわな毛並みのその猫。Ｌが溺愛するワタリであった。
足元まで歩み寄ったワタリを抱き上げたＬは満面の笑みを浮かべて、カップを手に持ったままの地蔵の方へとそのまま向く。
「紹介するよ。うちの猫のワタリ。ワタリ、こちらご近所さんの、えーっと……」
「たたり地蔵いいます」
「たかみじろう？ 君、随分渋い名前なんだね」
いやちゃうよ。そう地蔵は思うが口には出さず。
「遊びにきてくれたんだ」
「よろしゅうね」
「……」
じっと琥珀の瞳を地蔵に向けたワタリだったが興味が失せたのか、視線が外れた。
「どうしたんだワタリ？ ……ごめんね、今日は機嫌が悪いのか愛想がなくて。いつもは誰にでも懐いてくれる仔なんだけど」
「気にしておりまへんので」
困ったように笑ったＬは抱き上げたワタリを座っていたソファーへと降ろした。ティーポットを片手に持つと「お茶のおかわりを入れてくるよ」と言葉とワタリを残してキッチンへと消えていく。
本格的な紅茶を用意しているため、Ｌが戻るまで少し時間がかかるだろう。キッチンで作業をしているＬを見やった地蔵は再びワタリは再び見詰め合う。ワタリは観察するように、警戒するように地蔵を見据えていた。
「……自分、話せるやろ？」
「……」
コンロを使用している音の傍ら、小声で地蔵はワタリに問う。だが、あくまでワタリはじっと見返すだけだった。
「別に自分に話せない振りするんは構わんけど、飼い主に話しているところ見られとったよ。気ぃ付けんと」
「……」
「あんさん、海外の怪異やろ？ あんまし海外の怪異は知らんけど、日本の猫妖怪とかとは雰囲気ちゃうし」
「……」
「特に悪さしてる様子もあらへんし。飼い主さんの見間違えやったってことで言っておくけど」
「なら助けてください」
猫が話した。猫の鳴き声ではなく、人の言葉を。
「あなたの言う通りワタシは海外の怪異です。本来の名は告げることはできませんが、種族名は人間が使っている名称ではケット・シーと呼ばれていることが多いです」
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作者名：翔べないペンギン | 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/u.php/hp/Information/
作成日時：2021年7月21日 17時
