【路地裏の百物語】浮世の沙汰は諸行無常【派生作品】 (ページ20)

今日:1 hit、昨日:3 hit、合計:4,958 hit

ページページ20

．

　程なくして玄関口から現れたのは年若い男性だった。日本人にしてははっきりとした顔立ちをしたその男性は、まさか本当に子供がくるとは思ってもみなかったのか目を瞬いていた。

「えっと、君でいいのかな？」
「せや。ボロ屋の紹介であんさんの所のにゃんこを調べにきたもんです」

　えっへんと胸を張る地蔵に苦笑いを溢す男性。まぁ些細なことだし、ということで男性は地蔵を招き入れた。
　西洋風のインテリアが多くある玄関を上がり、リビングへと通された地蔵。途中フローリングが地蔵の重さに苦痛の声を上げているが聞こえない振りをして。

「そこのソファーにかけておいて。今お茶とお菓子を持ってくるから」
「お構いなくー」

　ふかふかしてそうな深いクリーム色のソファーによいしょっと座ればスプリングが嫌な音を立てていた。壊れた様子はないが、流石に地蔵の体重は重かったようだ。
　しかし特に気にすることもなく、そして見た目に似合った行動である両足を交互にぷらぷらと動かして待っている地蔵はリビングをキョロキョロと物珍しげに見ていた。
　白い壁にちょっとしたシャンデリア、家具も部屋に合わせてシックな濃い茶色をベースとしている。どことなく高級感溢れるそれに、もしかしなくても金持ちの家が何かかと思っていれば男性はトレイを持って地蔵の前へと現れた。

「紅茶飲めるかい？」
「自分、好き嫌いはありまへんので」
「よかったよ。口当たりの良いキャンディにしたから飲みやすいと思うけど、一応シュガーとミルクも用意したから」

　地蔵の前のテーブルに置かれたものは細かい細工が施されたティーセットだった。そこまで目利きがない地蔵でも、とても良いものだとわかる代物。
　どうぞ、と笑う男性に頷いた地蔵は手を伸ばすがやはり長さが足りなく。渋々ソファーから降りてカップを持って一口。

「……」
「どうかな？」
「うーん、西洋茶はあんまり飲みまへんからなんとも……」

　馴染みのない舌触りゆえに回答に困った地蔵はことりとカップを置くと再びソファーに座り直した。相変わらず悲鳴を上げるソファー。
　さして気にする様子もなく、地蔵は改めて依頼内容の確認をし始めた。

「はい。俺の名前は佐藤・Ｌ・レンって言うんだ。通称Ｌです」
「……自分、それまさか狙って言ってるんです？」
「あ、あれ知ってるの？面白いよねー」

　にこにこと笑うレンことＬに、思わず地蔵は呆れた目で見返してしまった。