【路地裏の百物語】浮世の沙汰は諸行無常【派生作品】 (ページ15)

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　室内は比較的涼しい、というのは少し前の時代。灼熱と化した昨今の太陽は室内にも熱をありがた迷惑にも届けていた。日光によって熱せられたトタン屋根から熱が伝わっているため、室内は蒸し風呂のように暑くなっている。
　──というのは世間一般理論。ここは多数の怪異も集(つど)うボロ家。どことなく涼しげな、独特な空気が漂っている。それは気温にも比例しているようで、先述した蒸し風呂ということもなく。明らかに外よりは涼しい体感であった。

「さーわーこーさーん」

　草履を脱いで端に寄せた地蔵は玄関口から上がると床が悲痛な程の悲鳴を上げる声が。だが、沢子を呼ぶ地蔵自身の声によって打ち消されていた。ミシミシと軋むが気にすることなく、地蔵は沢子を呼ぶ。

「一階にはおらんのかなぁ」
「となれば、地下か」
「せやね。昼時やさかい、景はんと一緒に昼飯を食べてはるかもしれんし」

　地下へと続く道を降りた二人は沢子が居そうな場所を探す。
　ひとまずが彼女がよく仕事で愛用している部屋へと向かう二人は、道すがら最近の修行内容で会話を広げていた。
　最近はお寺修行を体験する人たちが増えたためか、一日修行体験やプチ断食など、手軽に参加できるようになってきている時代である。老若男女、様々な世代から好まれているようで。事業として展開していくお寺が多いと聞いている。

「達也はんのところは事業展開されるんです？」
「さぁ？俺のところは爺ちゃんが、今のところはないって言ってたけどな」
「そうでっかー。影ではまぁ坊主丸儲けって言われてるさかい、和尚はんも必要ないんかもしれへんなぁ」

　実際お寺は非課税ゆえに、と言えばわかるだろう。これ以上は色々とあるので省略させていただくが要はそういうことである。
　ミシミシと床にダメージを負わせている地蔵は時々沢子の名前を呼びつつ、達也との会話に花を咲かせて進むこと少し。

「？」
「どうしたんです？達也はん」
「今なんか声が……」

　声？と地蔵が聞き返す。耳を済ませてみれば進行方向の先で確かに人の声のようなものが聞こえてくる。

「ど、たか……、せん……？」

　か細く、そしてなにやらくぐもったような声だが、沢子の声にもとても似ていた。
　顔を見合わせた地蔵と達也は急いで沢子の声がする方へと向うのだが、足の長さの違いと単純な俊敏の差によって地蔵は達也に担がれて運ばれていった。