空っぽを埋めるモノ５【RKRN】

記憶199 ページ10

｢何をしていたんだ？｣



足を組んでそう問いかける立花さんは女性だと言われても信じてしまいそうなほど可憐だ。
線の細さを感じるのに、流れる寝巻きの上からもわかる筋肉が異様に思えた。


｢……ここでのことを、思い出してました｣


そう言うと目を細めてふっと息をこぼし｢そうか｣とだけ残して前を向いた。



｢立花さんは？｣




返答は無い。




何かまずい事でも聞いてしまったのかもしれないが聞いてしまった今ではそんなことを悩んでも遅い。


どうしたものかと悩んでいるうちに鼓膜が震えた。



｢会える気がしたからな｣


思わず目を見開いた。

予想だにしない返答に一瞬何も考えられなくなるが、からかわれているだけだろうという結論に至る。
それに今の言葉には主語がなかった。
別の誰かに会える気がして、外を歩いてたらたまたま私がいただけ、ということも考えられる。
この人は、そういうことをする人だ。


｢もちろん、お前にな。A｣


どうやら後者の考えははずれたようだ。
しかしどうせ前者が正解なのだうと、彼をじと目で睨みつける。
それなのに立花さんは余裕そうにこちらを見て妖艶に微笑んだ。



これだけ整った顔立ちなのだ、今の台詞を世の女性が聞いたら卒倒してもおかしくないが。



｢そんな風に甘い言葉を吐いて、私を誑かすつもりですか？｣




引っかからないぞの意味を込めて嘲笑を浮かべる。



｢甘い言葉を吐けば誑かされてくれるのか？｣



月夜に鱗粉を振りまく蝶が、仔犬にでもなったかのようだった。

寂しげに笑い、顔だけでなく体もこちらに向けて、指で私の髪をいくらか掬う。
そのまま自身の顔を掬った髪の毛に近付けあろう事か――唇を落とした。




ゆっくりと顔が離れていく。
伏せられた目を囲うまつ毛が長くて、彼と自分の性別が逆だったのではと錯覚しそうになる。


そんなことを考えていないと、発狂してしまいそうだった。



｢そんなことでいいのならおやすい御用だ。さて、次はどうしてくれようか｣


指に乗せられた髪の毛を離したと思うと、今度はぐっと体が密着するように引き寄せられた。


｢蕩けるくらいでろでろに甘やかしてみようか｣


妖しくも魅惑的な誘いと吐息混じりの声が我を忘れさせようとしてきているような感覚だ。



｢部屋もすぐそこだ、ちょうど良いだろう。……色々と｣

｢何……を言ってるんですか……？｣



先程まで女性っぽいだの可憐だなどと思っていた自分を殴ってやりたくなる。

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