空っぽを埋めるモノ５【RKRN】

記憶197 ページ8

山本さんとは食堂で別れた。



私の中で勝手に行われていたカレー対決はおばちゃんには申し訳ないがカレールーが勝った。
一年生の子たちのための甘めの味付けが勝敗を分けた。
これは完全に好みの問題なので、美味しさを比べたのだとしたらおばちゃんに旗が上がったかもしれない。




食堂から部屋へと続く廊下の曲がり角の一つで立ち止まる。




思えばここでは二人の人とぶつかった。
一人は鉢屋さん、もう一人は小平太さん。



つい最近誤解が解けたというか仲良くなれたが、初対面からそれまでずっと鉢屋さんは敵意剥き出しだった。




すっとあの時に怪我を負った場所に自然と手が伸びた。
とっくに治った傷だが、破れた服と記憶があれは嘘ではなかったと言っている。




小平太さんとぶつかったのはたしか鍵捜索から帰った時。
私を小脇に抱えて走り出した時は驚いたけど、あれはあれでいい経験になったのかもしれない。
……どこに役に立つか知らないし、もう二度と経験したくないが。




(また誰かとぶつかったりして)



そんなことを思ったが、角を曲がった先には誰もいなかった。
代わりに風が私の体に冷たく吹きつける。
ぶるりと寒さに身震いして、早く部屋に戻ろうと足を動かした。


＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿



湯に足を入れると、じんわりとつま先から熱が伝わってくる。
静かに沈めた身体はあっという間に熱を受けいれ、その熱がだんだんと心地よくなっていく。


部屋に戻って風呂に入る準備をした私はそのまま風呂に向かった。



湯を手にすくって、それを顔にかける。
泣いたからか、目元は少しヒリヒリと痺れたがなんだかとてもすっきりした。


一人で使うには広すぎる風呂は、初日に山本さんと二人で入っても広かった。


胸元までしか沈めていなかった体を、肩まで浸かるように動かす。


学園にとって煩わしいだけの私のことを、彼女はあの時から信じると言ってくれた。



私は彼女の信頼に足る人物になれただろうか。


廊下でのことしかり、ここでのことしかり。
意図的なものでははきが、先程からこの世界で起こったことが追想されている。
思い出巡りでもしてる気分だ。



さらに体を沈めて、口まで湯に浸ける。
口から少しずつ空気を出すとぶくぶくと気泡が弾けていく。



いい機会なのかもしれない。



今までのことを振り返って、これからの事を想像して……天秤にかける。





どちらを選択するのか。






そう考えて私は風呂を出た。

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