記憶208 ページ19
頼まれたくせに私の力では伊作さんを持ち上げる事が出来なかったので食満さんが引っ張り上げた。
「すまない留三郎」
「気にするな、同室じゃないか」
危ないと叫んでくれたのはやはり食満さんではなく伊作さんだった。叫んでおきながら助けに行こうと走り出したら落とし穴に落ちたとかで、食満さんがそれを話すと伊作さんは恥ずかしそうにした。
「そうだったんですね。ありがとうございます」
伊作さんはしょんぼりと落ち込んだ。
「僕は何もしてないよ?」
「でも、助けようとしてくれたことに変わりはないです」
もう一度ありがとうと伝えると今度は明るい笑顔を見せてくれた。……かと思えばすぐに其の表情を変えた。
「いたた……」
足を捻ったのか伊作さんは足を押えた。
「私、医務室から包帯を取ってきます」
これくらい平気だと伊作さんは言ったが、痛がったのだから平気ではないのだろう。制止の声を無視して立ち上がろうとすると食満さんが私の手を引っ張った。
「俺が行った方が早いだろう。Aはここで伊作を見ていてやってくれ」
走るのも包帯や痛み止めを準備するのも食満さんの方が早いと判断した私はその提案を受け入れた。
「……」
「……」
二人きりとなり、沈黙が私たちを包み込む。
それでも意を決して私は言葉を発した。
「昨日はすみません」
「……えっ、と。……なんのこと?」
キョトンとした伊作さんにおずおずとか細い声で言った。
「"友達"と言ったこと……と言えば分かりますか……?」
伊作さんは分かりやすく気まずそうにして、その事ねと目を伏せた。
「それがどうかしたの?」
指と爪の間に砂が入ることも気にせず、私は地面の上で握りこぶしを作った。
虫のいい話なのは言われなくても自分が一番理解している。聞きたくないと自分勝手に話をぶった切っておきながらこんなこと。
「私は、伊作さんを喜ばせる返答が出来ないです」
確実に、彼が一番望む返答が出来ない。だからそう言い切った。
「これが私の間違った想像なら無視してくれればいいです。でも、そうじゃないなら……。……もし、伊作さんがそれでもいいのなら」
変なところに力が入って声が裏返りそうになるのを何とか堪えて、伝えたかった事を伝えた。
「あなたの気持ちを聞きたいです」
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しおむすび(プロフ) - 夜分遅くにすみません。少し昔に拝見したこの作品、またRKRNに加熱したので少し覗いて見たら、これがもうどハマりしてしまって…登場キャラの細かな心理描写、細部の設定などに心打たれました。これ以上のRKRN夢は存在しません!これからも頑張ってください! (3月23日 0時) (レス) @page50 id: 85b974bf49 (このIDを非表示/違反報告)
小学7年生(プロフ) - あみさん» あみ様、コメントありがとうございます!何年経っても色褪せない作品、それがnntm(RKRN)ですから…!もったいないお言葉、恐縮でございます。これからも良き夢ライフをお過ごしくださいませ! (2月3日 8時) (レス) id: 01b7521881 (このIDを非表示/違反報告)
あみ(プロフ) - 16で忍たまに加熱、22歳で再加熱した者です。処女作とは思えないくらいストーリーや伏線がきっちりしてて、とても素晴らしい作品でした!😭ひとまずは今回の長編執筆お疲れ様でした! (1月22日 16時) (レス) id: 4a1c0578e6 (このIDを非表示/違反報告)
小学7年生(プロフ) - riemoa0323さん» riemoa0323様、コメントありがとうございます!お返事が遅くなりすみませんでした。そう言っていただけてなによりです。こちらこそ、閲覧いただきありがとうございました! (11月26日 22時) (レス) id: 01b7521881 (このIDを非表示/違反報告)
小学7年生(プロフ) - たけのこさん» たけのこ様、コメントありがとうございます!お返事が遅くなりすみませんでした。そう言っていただけてなによりです。こちらこそ、閲覧いただきありがとうございました! (11月26日 22時) (レス) id: 01b7521881 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:小学7年生 | 作成日時:2020年3月5日 14時