＊93＊ ページ3
アパートまでの数分の間。
何も話すこともなく、時々雅紀くんが「車が来てるよ」って、避けてくれたりするくらいで。
あっという間にアパートに着いた。
「まだここに住んでるんだ。」
「うん。通勤にも都合がいいから。」
「じゃああのコンビニもよく使ってくれてるの？」
「うん、贔屓にさせてもらってる。」
エントランスで、傘を畳んだら、雅紀くんのパーカーがずぶ濡れで。きっと私の方へ傾けてくれていたからだと気づいて、ハンカチで拭いてみたけどやっぱりダメで。
「ごめんね？傘を持ってる雅紀くんを濡らしちゃって・・」
「いいのいいの！男の子は少しくらい平気だよ？女の子は体冷やさないようにしなきゃ。」
「ありがとう、助かったよ。」
「いいって！じゃあ、また。」
来た道を戻っていく雅紀くん。
もしかしたら余計濡れて帰るんじゃ？
傘に入れてもらう前に、聞けばよかった。なんならコンビニで傘を買えばよかった。
降り止まない雨を見上げながら、思わずため息。
雅紀くんはこんな人だった？
雅紀くんが浮気をして、浮気相手に本気になって私を捨てたって事実は変わらない。
でも。
あの時の雅紀くんとは、何かが違った。
少し小降りになってきた雨に、またため息をついて部屋へ戻る。
おつまみを温めながら、着替えを済ませたところでインターホンが鳴った。
「ただいま。」
「あれ？早かったね。」
「うん、まぁ・・ね。」
「ご飯は？」
「食ってきた。」
「そう。」
熟年夫婦のような会話が嬉しくて、ニヤニヤ。
シャワーに直行した和也が脱ぎっぱなしにしたスーツを手に取る。
ハンガーにかけようとクローゼットを探していて気づく。
「・・ぬれてる？」
和也が帰ってきたとき、雨は小降りだったはず。なのに、裾が随分ぬれてる。
「俺も飲みたいなぁー。」
「あ、待って！新発売のは私が飲むから！」
慌ててハンガーをかけてリビングへ。
焼き鳥をつまみながら、お目当てのビールを開けようとしてる和也を引き留める。
「雨、大丈夫だった？」
何気ない和也の一言になぜか慌てて息を吸い込んでしまって、変な間ができた気がしたけど。
「・・うん、大丈夫だったよ？」
「そっか。」
いつもと変わらず、和也と笑って。
変わらない時間を過ごした。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 541人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「嵐」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：蒼しょこら
| 作成日時：2019年6月5日 13時
