【Q】うちのお嬢様【all】

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　居ないのか？

　いや、でも福良さんはお風呂に行ったって確かに言ってたしな。




　まだ湯船に浸かっているのかもしれない。

　そう思い、レバーハンドルに手をかけた―――





「伊沢、貴方そんなところで何をしているの？」





　―――刹那、隣から今まさに探していた声が飛んできた。


　なんてタイミングの悪い。

　こんなの、風呂に入ってる主を覗こうとしているみたいじゃないか。




　そんな誤解を招かれては困る。

　その事に気を取られ過ぎて、俺は気づいていなかった。




　―――着替えが無いのにも関わらず、なぜ自分の主の声が横から飛んできたのか、ということに。





「はぁあッ？！？おまっ、なんて格好してんだよバカッ！！！」

「だ、誰がバカよ！失礼ね！着替えが無かったから、部屋まで取りに行っただけよ。それのどこがバカなのかしら？」

「いやどう考えてもバカでしょう！！」





　俺に声をかけてきたAは、一目で風呂上がりだと分かる格好をしていた。

　湿ったブラウンの髪を一纏めにして、タオル一枚という、明らかにアウトな格好を。




　咄嗟の判断でAに背を向けた自分を褒め称えたい。

　なんなら表彰したい。


　よくガン見しなかったな、俺。

　執事としてのなにかを守ったぞ。

　男としては…………言わないでくれ。





「ちょっと、伊沢。いきなり背を向けてどうしたのよ。具合でも悪いの？」





　なのに、このお嬢様はそんな俺の苦労を察してはくれない。


　主がタオル一枚という状況に動揺しているというのに、彼女はタオルから覗く肌を隠しもせず、俺の正面にやってくる。

　もう一度背を向けるも、やはり察しの悪い我らがお嬢様は懲りずにまたもや顔を覗き込んできた。




　あんたのその格好が目に毒だから顔背けてんだよ！！察しろ！！

　とは、主従関係がある以上、言えそうにもなかった。





「やっぱり、少し顔が赤いわね」

「き、気のせいだと思われます」





　俺だってこれでも健全な男子だ。

　年頃の女性の肌をこんな間近で見せられれば、顔くらい赤くなるに決まっている。







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