思いは時に呪いとなる 四 ページ46
「言霊が一番有名な例だけど、言葉や思いは強すぎると時として外界に影響を及ぼすの」
「じゃあ、Aの暴走もその思いの強さのせいか?」
「それは大いにあり得るわ。でも、普通ならそこまで外界に過剰な変化はもたらさないはずよ」
戦の質問に阿音が答え、百音が続ける。
「おそらく思いの強さと歪みに、さらにアルタナが合わさってしまって外界に溢れ出たのでしょう」
「でも印が何年も消えないっていうのは、相当強い験力が込められていないと起こらないことよ。だからアルタナがなくても、そのうち何かしらの影響は出ていたと思うけど」
(だって……)
ーードス黒い怨念が見えたから。
と姉妹は口には出さないがAへ目を向けて心の中で呟いた。
『百音、コレ……』
『ええ……』
先ほど神楽たちが印にはしゃぐ横で、二人はAの印を見て唾を飲んだ。
二人の目には、印から黒い怨念のオーラが天井から壁まで広がっているのが見えていた。
『これ……Aがかけたのは、本当にまじないなんでしょうか。明らかに呪いに見えるんですが……』
『誰かから呪いをかけられたっていう可能性もあるけど、でも触れてみなきゃ分からないわね』
二人は額に汗を浮かべて小声で会話した。
『ねえA、ちょっとだけ触っても良い?』
『え? あ、うん』
阿音はAから許可を貰い、片手で百音の手を握ってもう片方の手で彼女の印に触れた。
『!!』
二人の視界でブワッと黒い怨念がうごめき、印に込められたAの思念が伝わってくる。
――お父さんとお母さんを守れなかった
私だけ生き残った
私が強かったら、守れたのに。
幼いAの声が二人の脳に響く。
続けて、今の印に影響を及ぼす現在の彼女の思いが流れてきた。
――周りで皆が叫んで死んでいった。
私はただ待っていただけ
嫌だ
もう人が傷つくのを見送るのは、嫌だ
強くなりたい。強くならなきゃ
守らなきゃ
もう、誰一人として傷つけさせない
誰一人殺させない
皆を守るためにも、
例え心臓を貫かれたって、頭をもがれたって、心臓の音が消えたって
――地べたを血まみれで這いつくばってでも盾になれ。
『ッ!!』
彼女の黒く濁った感情に、二人は恐怖を覚えてバッと手を離した。
それは、まじないなんて甘く優しいものではない。
神に祈りを捧げるようなものではなく
自分を穿つための呪いだった。
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作者名:刹那*桜 | 作成日時:2022年10月2日 5時