屋台で買って食べ歩きするなら人混みの中は気をつけろ 四 ページ16
俺がAと初めて会ったのは、三郎が処されてから半年以上した時だった。
その日は空一面に雲があって酷い豪雨だった。
源外庵、俺の工場の前でソイツは傘もささず、ずぶ濡れで立っていた。
買い物から帰って来れば知らん女がそんな状況で。
呆れて声をかけようとしたら、ソイツは胸に抱いていた小さな機械人形を工場の前に置いて行こうとしていた。
見た瞬間にわかった。
その機械は、俺の息子が作ったものだと。
『……オイオイ、そんなもの不法投棄してじゃねーよ』
『!!ぁっ……あのっ、えっと』
俺に気づいていなかったのか、驚いて振り返った嬢ちゃんの顔は、鼻も頬も目も赤く染まっていた。
幼さがまだ残る美人な顔が悲哀に塗りたくられている。
その原因が雨でもなんでもない、ソイツの顔に流れてる
『とりあえず中入れ』
『で、も……』
Aは自分の服に目を落としてためらった。
幕府の人間が着るような立派なモンで、一目みりゃ役人だとわかる。
俺のことを知ってて気遣ってるのか知らんが
『ガキが変に気遣うもんじゃねーよ。女が自分んちの前でびしょ濡れで突っ立ってる方が迷惑だわ』
肩をすくめて言えば、彼女は眉を垂らして迷いつつ俺の工場へとついてきた。
風邪を引かれたら困るので彼女を風呂に入らせ適当な作業着を貸してやる。
ひとまず落ち着いて卓を囲めば、彼女の顔も少しはマシになっていた。
初めは互いに名乗りから、相手は俺を知っているのかもしれんが自己紹介を適当にしておいた。
そしてAは自分のことを話し始めた。
少し言いづらそうに俺の息子、三郎とのことも口にした。
聞けば、鬼兵隊という義勇軍に所属していた三郎と出会い仲良くなったとか。
ある期間を境に彼女は戦場から離れたそうで、放浪していた所をひょんなことから幕府にスカウトされて今はそこで働いているとか。
雇われたのはつい最近のこと。
仕事場で見つけた過去の書類で、三郎が晒し首で処されたのを知ったらしい。
話している彼女の様子を見るに、未だに酷く混乱しているようだった。
『三郎さんから、機械人形を預かっていて。彼に返そうと、思っていたんですけど……ご家族に合わせる顔が、なくて』
これだけ置いて帰るつもりだった、と三郎の作った機械人形を持って言った。
Aの声は細く震えていて、怒られるのを待つガキみたいに身を小さくしていた。
屋台で買って食べ歩きするなら人混みの中は気をつけろ 五→←屋台で買って食べ歩きするなら人混みの中は気をつけろ 三
151人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:刹那*桜 | 作成日時:2022年8月29日 18時