▽9 ページ11
「…おーい、北斗ー…、」
「……なに、？」
抜き足差し足、ゆっくりと近付いて、小さい声で名前を呼ぶ。
そこで初めて、北斗は顔を上げた。
あ、今日眼鏡掛けてたのか、なんて。
さっきも撮影で見ていたはずなのに、改めてそんなことを考える。
なんだか少し、バツが悪そうにこちらを見る北斗。
なんだその顔は、と一瞬思うが、そういえば、昨日のことがあった。
そのために今俺は声をかけたのだ。
未だ無言でこちらを見る北斗の前に、右手で紙袋を突き出す。
中には、昨日借りた上着。左手には傘。
「…これ、昨日、ありがとな」
「…ああ、どういたしまして」
「それと、」
「ごめん」
「………え？」
昨日は変な反応して、ごめん。
そう続けるはずだった。
それなのに、先に謝ったのは北斗の方で。
俺は眉間に皺を寄せた。
なんで、コイツが謝る？
「え、え？なんのこと？は？」
全く見当もつかない謎の謝罪に。
頭にいくつものはてなマークが浮かぶ。
首を傾げ間抜け面をしているであろう俺の顔に、北斗はおもむろに自身の手を近付けた。
急の出来事に体が固まる。
な、に。
思わず目を瞑った俺のおでこに、冷えた感触。
なんだ、？と僅かに目を開けば、そこには、北斗の掌が当てられていた。
「…ほく、」
「…やっぱり、無理にでも連れて行くべきだった」
「え」
「熱、ごめん」
気付いてたのか、？
もう一度ごめん、と呟いた北斗。
ひんやりとしたその感覚に、気持ちが良い、なんて。
場違いなことを考える俺を見つめて、北斗は眉間に皺を寄せた。
確かに、さっき樹にも熱いと言われた。
昨日眠気に襲われる直前、ズキズキと頭が痛かった。
今も、何故だか視界が揺らいでいる。
ああ、そうか。
やっぱり。
俺、熱あるのかあ。
ぼんやり、他人事のようにその事実を受け入れる。
あんまり、考えたくはなかったけど。
北斗があまりにも、苦しそうに謝るから。
そっちの方が気になってしまって、俺は無意識に笑ってしまっていた。
そんな気にすること、ないのに。
やっぱ真面目だな、コイツ。
「こんくらい平気。今日あと一本撮影したら終わりだし、どうってことねーよ」
ガッツポーズをして答える俺。
溜め息をつく北斗。
「…何かあったら言えよ。俺じゃなくても、樹とか、高地とか、言いやすい奴に」
そう言ってぺし、と俺のおでこを叩いた北斗は、そのまま楽屋を後にした。
一人残される俺。
やっぱり体は熱いままだった。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 546人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
白梅(プロフ) - なぺこさん» なぺこさんコメントありがとうございます！嬉しい言葉がたくさん、、！不定期更新ですが、ぜひこれからも応援よろしくお願いします！ (2019年6月3日 16時) (
レス) id: ff41a5aa52 (このIDを非表示/違反報告)
なぺこ(プロフ) - とても面白いです！文章から、その時の情景がすごく伝わってきて読みやすいです！！好きです！応援してます！！ (2019年6月2日 22時) (レス) id: 7d886639bb (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：白梅 | 作成日時：2019年5月15日 18時
