重力使い、絶賛悶絶中。 《中原中也》

第97話　挙式前夜 ページ50

「ただいま。中也」
「おかえり。A。準備できてるか？」
「ばっちりだ。ゆっくり入ってきなよ」
「おう」

　挙式を翌日に迎えたあたしは、仕事を終えて直帰した玄関先で、服が煤(すす)け、血の臭いがする状態で風呂場に向かう婚約者と鉢合わせする。そして、浴室に入った彼の後に脱衣所に入り、うがいと手洗いを済ませて物置に直行し、着替えとスーツケースを取りに行き、それを靴箱横に置いて準備し、居間で彼が上がってくるのをソファーに座って読書をしながら待っていた。

「次。いいぞ」
「ん。ありがとう」

　彼愛用のシャンプーの香りがしたところで本を閉じ、座り心地の良い長椅子から腰を上げ、入浴後の濡れた髪をドライヤーで乾かし、準備万端の状態で居間に居る婚約者に敬礼の真似をした。

「中也。準備完了だ」
「よし。行くぜ」
「おー」

　自家用車ではなく公共交通機関を使い、１時間ほどかけて京王プラザホテル最寄り駅の新宿駅西口に向かって、20時過ぎに本館３階ロビーにある受付でチェックインし、エレベーターを降りてデラックスルームへ続く廊下で、部屋の鍵を持った中也がこう言った。

「A。次に泊まる時は、スイートルームにするか？」
「賛成。今回空(あ)いてなかったからね」

　今回の挙式特典として結婚１周年目に、客室の最上位ランクのプレミアグランに宿泊できるが、本人としてはリベンジとして半年後に泊まりたいらしい。
　部屋に入室して感嘆の声を２人揃(そろ)って控えめにあげた後、室内を一通り探索した後に、貴重品を抜いた状態のスーツケースをクローゼットの中に置き、一足早く就寝の準備をした。

「あー…。明日、絶対緊張する」
「Aなら大丈夫だろ」

　３日前の11月22日に、新居近辺の区役所に婚姻届を提出し、無事受理された事に安堵(あんど)している。鍵はテレビ下の机上に置き、夕食を摂(と)らず、就寝準備の途中で自分のスマホが着信音を鳴らした。

「もしもし。…ああ。20時半からだったな。……もちろん了承済みだよ。15分後に会おう」

　通話を切ってから中也に視線をやると、一度頷(うなず)かれて笑みを浮かべる。

「それじゃ、バチェロレッテパーティーに行ってきます」
「おう。俺も、これから梶井達と飲みに行ってくる」
「わかった。また後で」
「ああ」

　婚約者は、独身最後の男子禁制の宴に貴重品が入った手提げ鞄を持って一時解散し、遅くとも22時頃の帰還を互いに約束した。

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