重力使い、絶賛悶絶中。 《中原中也》

第61話　ディスクの中身 ページ14

「無職になったが、毒と家業である漢方の知識を買われて、表と裏の社会を行き来してた。ある時、噂で二人の子供の生存を確認でき、神奈川方面に出張がある際には、あの擂鉢街(スラム)に立ち寄ったよ。何年か通って信頼関係ができた頃、ある男を通して、新品のビデオカメラを手渡したんだ」
「電気屋のオッサンだな？」

　それまで口を噤(つぐ)んでいたが、思い当たる節があって話に割って入る。男が辛(かろ)うじて頷(うなず)いたのを見て、舌打ちをした。擂鉢街と外の世界の仲介役で商売をする人間が、少数だが居た。
　あの時、ショージが云った言葉を今でも憶えている。

(『本当は売り物じゃないんだが、ポートマフィアに頑張って対抗してるお前さん達に免じて、破格の値段で売ってやるよ』だって！)

　ビデオカメラで撮ったものも、身に覚えがあった。

「あれで撮られた人物は、あたしと中也だけだ。そして、二人が映った動画を持つのは、お前しかいない。どうしてだか判るか？」

　Aの問いに再び白(しら)を切り、今度は、骨は折れないが軋(きし)む程度の圧力を加えていき、それを持続させる。苦悶の声が男の喉から漏れるが、それで止められる優しさは要らない。彼女が、淡々と言葉を続けた。

「お前が、ビデオカメラを盗(と)ったからだ。ある組織の拠点に残っていた、男性の加齢臭と匂いのきつい漢方。研究員時代から吸っていた愛用の煙草(たばこ)。銘柄は、ジョーカー。着火前は、メープルシュガーに似た甘い香りが特徴なのも、よく憶(おぼ)えてる」
「……」

　呼吸する以外は閉口せざるを得ない男に対して、婚約者は、真っ黒な笑みを浮かべ続けている。

「神崎家の使用人は、立場上従順だが、いつ如何(いか)なる場合でも、当主に対して最終的な判断を仰ぐ事ができる。例えば、ディスクに収められた映像の内容や、個人的な趣味をな」

　一族は、あの中の内容が気になっている様子だが、観せる心算(つもり)は毛頭無い。

「観た事も無いくせに、貴様が判断するな！」
「この状況で大口を叩くとか、お前莫迦(バカ)か。嘸(さぞ)、彼に痛めつけられるのが好きと見える。嗚呼、言葉を間違えた。お前が好(す)いているのは、彼だったな」

　そこで、俺は、Aの顔を見たが、説明する本人は、男を指差して告げる。

「この人は、幼年趣味で男色なんだ。気持ち悪いにも程がある。憎悪するぜ」

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