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俺は達観するだけで、その時見て見ぬふりをしてしまったけれど。
だってその方が楽だから。
彼女への嫌がらせはここ最近は止んでいて、それは素直に喜ばしいことだろう。
しかし彼女はこうして他人の言葉を借りて、俺自身が目を背けた自己の沈黙に向かってナイフを突き刺すのだ。
俺はそれがすごく痛い。
でもきっと彼女はその何倍も痛かったのだ。
だから俺はそれを甘んじて受け入れるしかない。
だって彼女を好きになってしまった。
もうどうしようもないくらい好きだったのだ。
「ねえ、私を悪だと分類したのは誰なのかな」
「誰だろうな」
「私は本当に悪人なんだろうか？」
「どうだろう」
少なくとも、おれはお前を悪人ではないと思いたいよ。
誰もいないこのお前だけのエデンで一人泣いていたこと。
一度だってあの女子生徒のことを悪く言ったことなどないこと。
必死に取り繕いながら制服を乱してここにいること。
そうやってラベリングされた『悪』を必死に演じることで、お前以外の誰かが犠牲になって欲しくないと思っていること。
ただ強がっているだけのただの普通の女の子だということ。ほんとうはとても美しいひとだということ。
俺はだってあの日ここで、この屋上でAを見つけた時、その前からずっとずっと知っている。
何を今更、と思うかもしれない。
どうして助けられなかったのだと詰られるかもしれない。
そもそも、俺が知っているからと言って何かが起こるわけでもない。
事実、彼女が悪人から善人へと何事も無かったかのようにカテゴライズされることはきっともう無い。
それでも俺は、この哀れで健気で、俺と同じ歳の、同じ学校の、同じクラスの、この女の子のことを好きになってしまったのだ。
久瀬はただ微笑むだけで、何も言わなかった。
そのかわり、彼女はその白い指先で俺の顔を捕まえて、無理やり俺に口づけた。
俺は為されるがまま口づけられて、そのままぱっと顔を離される。
「……川西くんがわたしを好きだと知っていて、こういうことをするわたしでも、川西くんは悪人じゃないと言えるのかな」
「言えるよ」
「どうして？」
「おれがAをすきだから」
「そう、それなら、そうだね。そうかもしれないね」
もしかしたら今の私が、太一くんのことを好きなのかもしれない可能性がきっと１パーセントはあるかもね。
「それが聞けただけでいいよ」
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つばき - 川西のお話、鳥肌が立ちました。陰のある恋をしてほしいっていうの、同意します…！ (2021年2月14日 10時) (
レス) id: f1e42d3762 (このIDを非表示/違反報告)
桔梗(プロフ) - リムさん» ありがとうございます！ 頑張ります (2019年12月30日 22時) (レス) id: b9479cbc1c (このIDを非表示/違反報告)
リム - 赤葦の物語とっても切なくて涙が止まりません・・・泣 これからも頑張ってください! (2019年12月22日 2時) (レス) id: 7cc2098249 (このIDを非表示/違反報告)
桔梗(プロフ) - 天祢さん» そう言っていただけてうれしいです！個人的にも川西くんのお話が好きなので、刺さってくださる方がいて良かったなあと思います。更新を楽しみにして頂けるとうれしいです。コメントありがとうございました！ (2019年12月14日 15時) (レス) id: b9479cbc1c (このIDを非表示/違反報告)
天祢 - 読ませていただきました!勿論全部のお話が素晴らしかったのですが、元々最推しなのもあって川西くんのお話が特に良かったです。深いなぁ…と思いました。更新頑張って下さい!楽しみにしています(^-^) (2019年12月13日 21時) (レス) id: dfbff6b887 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：桔梗 | 作成日時：2019年11月16日 13時
