余白 ページ45
「どうして悲しい顔するの？」
私の言葉に翔さんがハッとした。
眉は下がったままなのに翔さんは笑った。
「気づいてあげられなくてごめん、というのと……その感性を『ズレてる』って言葉で片付けられてきたAの過去を思うと……」
「……」
「それこそがAの唯一無二な部分なのにそれを否定されてきた？」
「そうなのかなぁ」
ゆっくり。
私はこのままでいいんだ、って心がゆるゆると溶けていく気がする。
「思えば、電車の中でさ」
「うん」
「桜並木を見るために一生懸命窓の外を見てる横顔とか、雨の日の電車を待ちながら空を見上げる後ろ姿とか」
「……」
「多分新作なのかな、本の一頁目を開くときのワクワクした表情と、最後の頁を読み終えたときに本を抱きしめる仕草」
「……え」
「あと読むの早い方なのに時々頁開いたまま、どこかの一文でしばらく固まってたりしてた、ごめん俺ストーカーかよキモ」
翔さんが苦笑いした。
すっごい見られてた。
けど、今日のみぃと稔くんを見分けたときの様子を見てたら観察眼が鋭いだけ、みたいな感じがするから不快感はない。
「キモくないよ……？」
「いや……最初は心配してただけだったのに気づいたらずっと見てて……今何考えてるんだろうってずっと聞いてみたかった」
「……」
「好きになった理由は多分それだよ、俺らが拗れる原因であり、Aがズレてるって言われる原因」
私のこの無駄な部分を、好きだと言ってくれる人がいる。
私の余白を愛してくれるの？
そして、その余白こそが私らしさだと。
認めて理解して守ってくれようとしてくれる。
あ、これはまずいかも。
涙がじわっとこみ上げた。
「A？」
「抱きつきたい……」
「ええっ？」
「外なのに抱きついていい？」
涙が零れ落ちそうになって拭おうとしたら、翔さんが私の肩を掴んで引き寄せた。
「わ」
「あーあ……外なのに抱きしめちゃった」
翔さんがクスクス笑ってる。
ああ。私、世界一幸せだ。
「ありがと……」
「でも恥ずかしいから続きは家で」
翔さんが私の頭頂部を顎で一回ゴン！とぶつけてから体を離した。
「ねぇ、なんでそれいつも……頭ゴンって」
頭頂部を押さえて翔さんを見上げたら翔さんがフフフと笑った。
「ゲームで言うと次に進むボタン」
「えー」
「離れ難くなるでしょ」
抱っこしたあと離れるときいつもぽん、って私のどこか痛くない程度に叩くのそういう意味だったのか！
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ago(プロフ) - はじめまして。Shionさんの言葉選びが素敵すぎてたまに読み返しに来させていただいてます。素敵な作品を残してくださってありがとうございます！ (2月13日 23時) (
レス) @page50 id: ecfdd3fdc3 (このIDを非表示/違反報告)
みい(プロフ) - はじめまして。コメント失礼します。私も絶賛男性不信です。元カレのみならず親からの影響もあり、半ば恋愛も諦めています。すごーく重いし、わかってもらえるとも思えなくて。こんな風に受け止めてくれる人がいたらどんなに幸せだろーって浸ってしまいました！ (2022年11月12日 12時) (レス) @page48 id: a71a0c3a62 (このIDを非表示/違反報告)
紗頼*(プロフ) - はじめまして、初めてコメントさせていただきます。このお話本当に大好きでもう何回読み直したかわかりません笑 他の作品も時間見つけては読んでいます。よしのさんの文章の構成とか胸がきゅうってなる登場人物たちの心情がとても好きです。また読みに来ます！！ (2021年8月21日 0時) (レス) id: dc10abf432 (このIDを非表示/違反報告)
たまりん(プロフ) - あー、やっぱりこのお話大好きです。何度も何度も読んでます。とっても幸せな気持ちになります。翔さんの頭の回転の速さ、エリートなのにその立場で人を見下さないところとか、とにかく2人の性格がとっても好きです。よしのさんの作品、大好きです (2019年12月2日 8時) (レス) id: 73cb3c7af7 (このIDを非表示/違反報告)
えみ - 完結おつかれさまです。似たもの同士の2人でお似合いで話を読み進めていくうちに自然と涙が出ていました。今まで出逢った作品のなかで1番心に残る作品だと思います。ありがとうございました。 (2019年9月25日 6時) (レス) id: 951aeb9614 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：shion
x他1人 | 作者ホームページ：
作成日時：2019年7月5日 13時
