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人は自分が持っているものの価値に気付けない。
「蓮二は、千恵の気持ちに気づいてるんでしょ？」
放課後の図書室。
テニス部を引退して1週間がたった柳は毎日のようにそこに通っていて、今日はAも一緒のようだ。
「なんのことだ？」
閉じられた瞼をピクリと動かした柳は、読み終えた本を元の位置に戻しながら答えた。
シラを切るつもりなのか、自分は何も知らないと言わんばかりの表情。
だがAは知っている。
柳が、誰よりも周りを見ていることを。
「いつまで誤魔化す気？
それとも、ずっと言わないつもり？」
人の恋路に口を挟むのはお節介というものだが、放っておけば、何も始まらないのだ。
幸せになってほしいからこそAは干渉してしまう。
「俺にはさっぱりだ」
聞くな、と、柳の表情が語っている。
それに彼女はもちろん気づいていたが、それを無視するように柳の瞼をじっと見つめた。
「マサの気持ちに気づいてるから、だよね」
ため息と混じるその声。
真実を秘めた瞳は優しく、柳を映していた。
「……」
意味がわかっているのだろう。
だが柳はそれに答えることができない。
「でも、それは優しさじゃないよ」
冷たく言葉が柳に刺さる。
「俺のデータ上ではこれが一番いい方法なのだ。
皆が幸せになれる」
最後の本を戻し終えた柳は、椅子に置いたスクールバッグに手を掛けた。
瞳の色は見えないが、その心情は痛いほど彼女に伝わる。同じ想いを抱えているからこそ。
だが、Aと柳は違うのだ。
「その人にとって何が幸せかは、データじゃわからないよ」
その言葉に柳の動きが止まる。
「だが俺にとっては、どちらも大事だ」
スクールバッグを肩に掛けた柳は、話は終わりだと言わんばかりに背を向け、扉へと歩いていった。
Aは1人、柳のスクールバッグが置かれていた椅子を見つめる。
千恵だけではなく、柳も仁王も大切で、全員に幸せになって欲しいと願っているのだ。
だが、それは叶わぬ願い。
ベクトルは１つの方向にしか向かないのだ。
「どうした？帰るぞ？」
扉から掛かる声にAは振り返った。
もうとっくに行ってしまったと思っていたからだ。
彼らが引退してからは、何だかんだで元テニス部の誰かと一緒に帰っていたAだが、柳が待っていてくれるとは思わなかった。
「早くこい」
その優しさに泣きたくなる。
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SHINO(プロフ) - スノウさん» スノウ様！いつもコメントありがとうございます。スノウ様のコメントは本当に何度も読み返してはニヤけてしまって、とても力をいただいています。そうですね、私も主人公の気持ちをやっと書けたので嬉しいです。笑 どうか最後までお付き合いください。 (2017年4月20日 15時) (
レス) id: cc409903fa (このIDを非表示/違反報告)
SHINO(プロフ) - 雪さん» ありがとうございます。気をつけている事に気付いてくださって嬉しいです。fifthの表紙もありがとうございました。申請を出したので使わせていただきます！これからどのような展開になるかは秘密ですが、楽しんでいただけると嬉しいです。ありがとうございます。 (2017年4月20日 15時) (レス) id: cc409903fa (このIDを非表示/違反報告)
スノウ - おつかれさまです！ついに主人公ちゃんから好き、という素直な気持ちが聞けて嬉しいのと同時に、これから彼女がどのように生きていくのか、不安なような楽しみなような。続編待ってます(^^*) (2017年4月18日 23時) (レス) id: 9bbfe87ee5 (このIDを非表示/違反報告)
雪 - お疲れ様です。続編も楽しみにしています。SHINOさんの花火を空が泣くと表現するところや、情景は目に浮かぶのに感情は明かさないようにするところとか本当に好きです。これからも頑張ってください。 (2017年4月18日 20時) (レス) id: 41f82b2237 (このIDを非表示/違反報告)
SHINO(プロフ) - Yさん» コメントありがとうございます！儚さは私の意識している点でもあるのでとても嬉しいです。終わりを残念だと感じていただけるような作品をかけてよかったです。ですが、まだ終わりそうもないので引き続きお付き合いください。笑 応援、本当にありがとうございます。 (2017年4月16日 16時) (レス) id: cc409903fa (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：SHINO
| 作成日時：2016年9月8日 17時
