検索窓
今日:3 hit、昨日:6 hit、合計:262,688 hit

36戯言を ページ37

俺はゆっくり手を放す。





「……っ」



Aはもう、笑ってなかった。

涙を、その瞳からボロボロと零すんだ。



「ごめん、リョーマ。
ごめんね。ごめん。……好き」




ああ、もう。



俺は歯止めが効かなくて、Aの頭を引き寄せた。



迷いもなく。

強引に、唇を重ねた。




「ん……っ」



甘い堵息。

流れる空気。



俺は、どうしようもないんだろう。






Aが、好きで。


好きで。


好きで。


愛しくて。




しかたないんだ。





唇を放し、ぎゅっと胸に抱いた。




「A。俺やっぱり駄目なんだよね」


「リョーマっ」


「ただの戯言だから、忘れていいよ」


「……」




すっと、息を吸う。

後悔しない道を、選んできたつもりだった。


だけど、とっくに選んでたんだよね。




「待っててなんて言わない。
でも、俺は必ずここに戻ってくる。
アンタが他の誰と付き合ってようと、結婚してようと、絶対奪うから。
嫌だって言っても、絶対奪いにいくからね」





我が儘な俺を、どうか許して欲しい。





「夢叶えたら、絶対戻るから」




だからさ、A。




「それまで、ずっと笑っててよね」




俺はそれだけ告げて、唖然としているAを放した。


消えないように。

俺の中から消えないように。


しっかりと目に捉えて。




俺は、ゆっくり笑った。





「ばいばい」





俺は1人、歩みを進めた。

決して振り返らず、ゆっくりと。




「待ってる……ずっと待ってるっ!」



Aの声が、ちゃんと聞こえる。

ちゃんと、耳に届く。




いつ戻れるのかなんて、わからない。

もしかしたら、一生戻れないのかもしれない。



これが、最後なのかもしれない。




むしろ、その可能性のほうが高いだろう。





無駄に期待させて、俺は本当に馬鹿だよ。






「ごめん……っ」



小さく、呟く。

叶うはずもない約束をした、自分を責めて。


何度も、自分をせめて。



「ごめんっ」



“好きだ”


この言葉の代わりに。



「ごめん……っ」



ごめん。



“またね”

とは言えなかった。



だって、もう会えないのだと、わかっていたから。



あんな約束しても。


奪いにいくなんて言っても。








果たせる事のない、約束なのだから。






「ごめん……、ごめんっ」



好きだ。好きだ。


その言葉の代わりに。



「ごめん。ごめんっ」





ごめん。








.

37優しい君へ、→←35決意、そして



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.9/10 (336 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
379人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

りんね(プロフ) - 今日この作品に出会いました。それぞれの気持ち、考え方が共感できすぎて胸が張り裂けそうでした。気づけば涙が止まらず…素敵な作品をありがとうございます (6月4日 20時) (レス) @page40 id: b603ccdf4c (このIDを非表示/違反報告)
MOMO(プロフ) - やっぱりリョーマ君を推したいけど桃先輩の恋が悲し過ぎて自分の失恋なんかどうでも良くなってきた…(´・ω・`)桃先輩が1番辛いんだろうな…好きなのに想いを伝えられないのが1番辛いだろうし……伝えられたとしても罪悪感が凄いと思うそれなのに何も出来ないのが悔しい (2023年2月19日 21時) (レス) @page27 id: 086efc5a74 (このIDを非表示/違反報告)
- とても切ないお話で、なんだか胸が締め付けられたような気がしました。続編、読ませていただきます。 (2021年5月3日 23時) (レス) id: 4fb606c628 (このIDを非表示/違反報告)
筍(タケノコ) - すごく泣きました。特に、仁王くんのやつ泣いた。すごく切なくて、この作品好きです。 (2018年1月1日 14時) (レス) id: 65608ed6db (このIDを非表示/違反報告)
SHINO(プロフ) - りりこさん» ありがとうございます。今読み返すと至らない点が多々ありますが、読んでくださった方に感動を届けられたならよかったです。未熟な私の作品に涙を流してくださってありがとうございます。精一杯頑張らせていただきます。 (2017年4月2日 0時) (レス) id: cc409903fa (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:SHINO | 作成日時:2014年2月8日 20時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。