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これから出逢う全てのものを君に重ねていく ページ8

「お邪魔します。」
「どうぞ、あがって。」

私のバイト先のカフェによく来てくれる女の子。ふとしたことから仲良くなってよく話すようになった。彼の訃報を知り、落ち込む私を励ましに来てくれたらしい。
優しくて可愛らしい女の子だ。

「沙和ちゃん、麦茶でいいかな?」
「あっ、すみません!ありがとうございます。」

カランカランと耳に馴染む音が部屋に吸い込まれていく。人を部屋に入れるのは久方ぶりで、何だか変な気持ちになった。皆は前に進んでいるのに、私だけ時間に取り残された気分だった。

「この度は、ご愁傷様です。」
「……うん、わざわざ来てもらってごめんなさいね。ありがとう。」
「Aさんにはいつもお世話になってますから……。私が来たくて来たんです。こちらこそ無理言ってすみません。」

優しさが身にしみる。それからはなんてことない話を二人でした。あの事件からずっと一人で居たから誰かと話すなんて、口を開くこと自体久しぶりのように思えて気が紛れた。
私のことを気遣いつつ、話を進めてくれる沙和ちゃんに涙しそうになった。一度話の流れが止まる。沙和ちゃんが気まずそうに視線を漂わせた後、小さく口を開いた。

「もし、犯人がみつかったらどうします?」

意図があまりにも読めない質問に私は一瞬戸惑う。私の心に燻るそれは人に見せるにはあまりにも汚くて適当にごまかそうと思った。でも、沙和ちゃんの眼差しはあまりにもまっすぐで、それを一切許さないような強さを感じた。

「……世間の常識とか、そんなのを無しにして正直に言うとね、復讐したいよ。私、犯人が見つかってね、そして私の目の前にもし現れたとしたら正気ではいられないと思う。何するか分からなくて自分でもこわいよ。」

「……それが、Aさんの知ってる人でもですか?」

「……そうね。知ってる人でも私は絶対許せないと思う。知ってるからこそ、絶対に絶対に許さないかもしれない。」

そうですか。沙和ちゃんは静かにそう返す。麦茶のコップは汗をかいていて、カランコロンと氷が動く音がまた部屋に響く。彼女の瞳はなぜか濁っているように見えた。

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かたよせ。(プロフ) - 見にくい (2019年9月17日 6時) (レス) id: fc6576e6c4 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:らる子 | 作成日時:2019年9月15日 19時

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