さよなら、また。 (ページ3)

今日:3 hit、昨日:0 hit、合計:20,112 hit

この身は君しか愛せないページ3

ご飯を作った。
食べなきゃ生きていけないし、仕方ないことだった。簡単に済まそうとしたけれど、作り始めたら夢中になっていて、気がつけば立派な料理が出来上がっていた。メインはハンバーグ。彼が好きだったメニューだ。
食卓に並ぶご飯を眺めながら、いつかの夕食を思い出した。

・

「ただいま。」
「おかえりー！もうすぐご飯できるよ。先にシャワー浴びる？」
「いや、ご飯食べる。……何かすることある？」
「大丈夫。疲れてるでしょ？ほら、着替えてきて。すぐに出来ちゃうから！」

将人は帰りがいつも遅い。刑事だし、今は事件だってあるし、それは当たり前だと思ってる。だからこそ、今日みたいに彼が早く帰ってこれる日はそれはもう私はウキウキなのだ。
疲れていたって、彼は私のことをいつも気遣ってくれる。嬉しいけど私だって彼にはちゃんと休んでほしいから、彼に手伝う隙を与えないように彼が着替えているうちに、パパっとご飯を食卓に並べた。美味しそうな匂いがふわりと香る。我ながら良い出来だ。

「将人、できたよー！」

嬉しくて、ご近所迷惑になりそうなほど大きな声で彼を呼ぶと、少し怪訝そうな顔をしながら部屋着に着替えた彼がリビングの扉を開けた。

「そんなに大声じゃなくても聞こえる。」
「だって嬉しくなっちゃって。」

眉間にシワを寄せている彼とは対象に私は頬をまたゆるりと緩める。すると彼もふっ、と笑みをこぼして肩の力を抜いた。

「呼んでくれてありがとう。冷めないうちに食べよう。」
「うんうん、そうね！」

彼はくしゃり、と私の頭を撫でて優しい声でそう言った。
プライベートと刑事モードとを切り替えるのは彼いわくなかなかに難しいらしい。でも、今の彼は私を甘やかしてくれる彼で、刑事の彼なんて見当たらない。

「Aを見てると気が緩む。」
「それって誉めてる？」
「誉めてるよ。」

クツクツと小さく笑いながら彼は言葉を紡ぐ。少しだけムッとして言い返せば、大層柔らかく彼は言葉を返した。私には事件の事は分からないし、彼も何も話そうとしないから何を抱えていて何に悩んでいるのか私にもわからないことは正直たくさんあるのだろう。でも、彼がこうして笑って、私もそれに笑顔で返して、そんな気の緩んだ日常が、彼にとって休む場所になるならば、私は何も聞かずに彼の止まり木になろう。いつも気をはってしまう彼だから、せめて私の前では肩の力を抜いて、刑事じゃなくて、ただの神谷将人でいてほしい。