3 ページ18
3年前｡その日は酷く雨が降っていた｡
｢ごめんなA｡急に出張になっちゃって｣
｢1人になっちゃうけど､一応真冬君や由紀君のお家にお話してあるからね｣
｢うん｡大丈夫だよ｡早く帰ってきてね｣
｢ああ｡お土産買ってくるからな！｣
｢明日の夕方には帰るからね｡行ってきます｣
｢行ってらっしゃい｣
それが､両親との最期の会話になるなんて､思いもしなかった｡
｢A｡今日お前ん家お袋さん達いないんだろ？｣
｢うん｣
｢じゃあ､俺ん家で飯食ってけよ｡後で真冬も来るから｣
｢いいの？｣
｢おう｡母さんがお前の好物作って待ってるからって｡息子の俺より愛が重いぞあれ……｣
｢嬉しいな｡ありがとう！｣
普通に学校に行き､いつもと変わらぬ会話を由紀君達として｡
本当に､いつもと変わらなかった｡
冬ちゃんが､凍りついた顔で教室に飛び込んでくるまでは｡
｢A…！｣
｢冬ちゃん？｣
｢どうした真冬｣
｢お､おじさんとおばさんが……今､ネットニュースで……｣
｢え？｣
｢A！大変だ！ご両親が！｣
＊＊＊＊＊＊
その日｡自動車6台が絡む大規模な玉突き事故が起きた｡
私の両親の車は､後ろから追突され､その反動で前の車に追突｡酷く大破された車の中から救助され､病院に運ばれたものの､その後死亡が確認された｡
｢お父さん……お母さん……？
ねぇ､起きて？起きてよ…｣
｢……A…っ｣
｢お願い…｡起きて…？ねぇ！
一緒に家に帰ろうよ……っ！！｣
付き添ってくれた由紀君と冬ちゃんの前で､私はただ､両親に声をかけ続けた｡
泣き叫ぶ私を､2人がずっとそばで支えながら静かに涙を流していたことも､この時の私は気づかなかった｡
“永遠”なんてないんだと｡世界はこうして呆気なく終わりが来るのだと､この時初めて知った｡
両親の葬儀は､冬ちゃんと由紀君のお母さん達が喪主を務めてくれて､小さく執り行われた｡
両家の反対を押し切って駆け落ちした両親達には､親戚は誰一人いなかったからだ｡
一人取り残された私は､元の家で一人で生きようと思った｡
まだ中学生で､両親が遺したお金しかないけど､あと2年もしない内に高校生になる｡そしたら少しずつバイトすれば､大丈夫｡
そう考えていた｡でも｡
｢A｡おいで｣
冬ちゃんが､私の手をとった｡
出会った頃と変わらない､強く優しい手で｡
｢大丈夫｡大丈夫だから｣
そう言って､冬ちゃんはその日､ずっと私の手を握ってくれていた｡
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 137人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
に - 最近ギヴンにハマった20代ですが、こちらの小説ほんっっっとうに最高です！！！！夢主の行動・気持ち・考えなど文からとても伝わってきて読みやすいです。お忙しいと思いますが、完結に向けて頑張ってください。楽しみにしております！！ (2020年4月30日 13時) (
レス) id: e8737ae1a9 (このIDを非表示/違反報告)
美咲 - アニメ終わって落ち込んでたら、映画っ！嬉しすぎて……2020年まで頑張っていけそうです！言ノ葉さん最終話までお疲れ様でした！番外？リクエストも更新、楽しみにしてます！に (2019年9月20日 15時) (レス) id: 7ef2d991dc (このIDを非表示/違反報告)
蓮華 - はじめまして！梶さんと春樹とのお話を書いてほしいです！ (2019年9月20日 10時) (レス) id: eb587ffa62 (このIDを非表示/違反報告)
神夜(プロフ) - マシュマロが通信制限で使用出来ないのでボードの方に感想、リクエスト書かせて頂きました。御手数ですが見て頂けると嬉しいですよろしくお願いします。 (2019年9月18日 5時) (レス) id: 1c640baa7c (このIDを非表示/違反報告)
言ノ葉(プロフ) - 美咲さん» コメントありがとうございます！雨月さんめっちゃ美人ですよね……｡10話の耳かけスタイルがとても色気爆誕でやばかったです…… (2019年9月16日 21時) (レス) id: 50b948882d (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：言ノ葉 | 作成日時：2019年8月30日 15時
