終章 月夜の歌 ページ21
ああのときの彼女を、止められなかった。追いかけることも、もはや、できなかった。異能力の無効化により彼女を忘れられなかった私は、あれから一ヶ月経った今、探偵社でいつもと変わらぬ毎日を生きている。
「ゆ、めーをみながーらー」
「おい太宰、歌なんて歌ってないで仕事をしろ仕事を!」
「わたしはおーさなごのよーうにー」
「おい!」
「なんだかなァ、その歌なんていう題名だッけ」
「与謝野女医まで......」
国木田くんとのやりとりに、突然与謝野さんが首をつっこんだ。しかし私は、そのときひどく驚いていた。異能力によって記憶なんて消えたはずの彼女の歌を聴いたことがあるだなんて、まさかそんなこと、あるはずがないのに、どうしてだろうか。
「それ、分かります。太宰さんのその歌、聞いたことはあるはずなのに、いざ自分が歌おうッて思うと歌詞が思い出せなくなッて......」
「お兄様と同意見ですわ」
それ、私も、僕も。次々に声があがる。
忘れられたはずの彼女の存在、そして、彼女の歌。今までの、楽しい思い出も悲しい思い出もすべて拭い、彼女はここを去って行ったはずだった。
「ねぇ与謝野さん。萩原Aっていう人、知っています?」
「萩原A......? 知らないねェ、A...... 分かンないよ」
「......だったら、いいんです」
不思議なことも、あるものだ。あぁ、と思う。
いずれ私も君を忘れるだろうか。そして過去のあの人のように、少しずつ、少しずつ、君の顔や背丈を思い出せなくなってゆき、最後には、ただそこにあったという過去形の存在感だけが、残るのだろうか。
それはなんて、かなしいことだろう。いっそすべてを忘れてしまえれば、そもそも惜しく思うことだってないのに。
私には、こうして君を想うことが、恋だったのか、どうかさえもわからない。それでも私は、君に言いたい。
君は、傷つきやすい。とても小さなことに、ずっとかなしまれていた。探偵社が、君につけた傷とは数えきれなかっただろう。そして、いちいちそれに落ち込んで、涙を流して生きてきた、そんな君が、君こそが、他の誰よりも、探偵社を愛してくれていたこと。
探偵社のみんなは憶えていたよ。君の愛が、異能力を勝ったんだ。ねぇ、それってすごいことだと思わない?
だから、自分を嫌いになるなんてやめて。私、君には笑って生きていてほしいなぁ。
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うずのしゅげ(プロフ) - 猫さん» ありがとうございます笑笑 そうですね、本当に彼女には報われてほしいですね☺️☺️ ドスくんが楽器を弾いて、夢主ちゃんが歌ってとかっていう穏やかで幸せな日々がありそうで妄想の翼が広がりますね!!笑 (7月17日 10時) (レス) id: c82952eeb4 (このIDを非表示/違反報告)
猫 - ズビッズビッっべ、別に泣いてないですけど、夢主ちゃんは幸せであって欲しいですねズビッ (7月8日 10時) (レス) @page24 id: a46c77cf46 (このIDを非表示/違反報告)
吹原思木(プロフ) - ラいむさん» ラいむ様!!長い間、本当にお世話になりましたー−!!!こちらこそ、今までありがとうございました。受験勉強がんばってきます!何度も何度もしつこいようですが、本当に、ありがとうございました! (2022年10月23日 21時) (レス) id: 82c6167370 (このIDを非表示/違反報告)
吹原思木(プロフ) - 眠夢@低(無)浮上さん» わー−!!うれしいですー!そうですねー、もうこの作品を書くことがないんだと思うと、本当に私も寂しい気持ちです、、わざわざコメントありがとうございました!次作でもよろしくおねがいしますー−! (2022年10月23日 21時) (レス) id: 82c6167370 (このIDを非表示/違反報告)
吹原思木(プロフ) - 黒猫さん» 上から読み返してくださったんですか......!! いやもうまじで、うれしいです!!黒猫様にはお世話になりました、今まで本当に、ありがとうございました!!受験勉強も、がんばってきます! (2022年10月23日 21時) (レス) id: 82c6167370 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:うずのしゅげ | 作者ホームページ:https://twitter.com/8YgT1yhKwYPDEd7
作成日時:2022年8月11日 22時