【イナアレ】島柄長 (ページ49)

今日:1 hit、昨日:19 hit、合計:53,601 hit

第23話姫の登場 2 ページ49

＊

「今のに追いつくって…」
「すごいスピードでゴス…。」

日和と岩戸も彼女の規格外のスピードに戦慄をしていた。
なえはそのままおぼつかないドリブルで進んでいく。すると、丁度フリーのアツヤが「こっちだ！」となえにパスコールを出した。

万作が我に返り「ゴール前固めろ！」と叫ぶ。しかし、なえがアツヤにパスを出すことはなかった。
なえはそのままシュート体勢に入る。意表を突いたシュートに、のりかは思わず身構えたが……。

「でえりゃあ～！」
「……え？」

なえのシュートは、弱々しくころころとのりかのもとへ転がっていく。逆になえが尻餅をついてしまった。

「あちゃ～、やってもうたパート2やぁ」
「おい！今のはオレにパスだろ！」

アツヤはなえに不満をぶつける。しかしなえはどこ吹く風で「いやぁ～サッカーちゅうのは難しいやっぺ～」と唸っていた。

そんな彼女の様子を離れたところから染岡と千鳥は並んで見守る。

「……千鳥、アイツにシュートの練習は？」
「い、一応…。ただ、姫さまのスピードを生かすため、最低限のコントロールと、姫さまの"スピードを生かした"シュートの練習を中心にやってましたから……」

千鳥と染岡は苦笑いだ。けれど、染岡はすぐに真剣な眼差しになり、なえを眺める。

「…だが、アイツがそのスピードで引っ掻き回してくれれば、この試合は面白くなる……。」

"面白く"その言葉に千鳥は少しムッとする。雷門との実力は拮抗している。ほんの僅かな油断が敗北に繋がりかねないというのに。
そんな千鳥の様子を感じ取ったのか、染岡は千鳥の背中を優しくぽんぽんと叩く。

「お前も、もう少し肩の力を抜け。サッカーを楽しむことを忘れちまったら元も子もねえぞ。」

染岡の言葉に千鳥はハッとする。確かに、今日の自分は勝利に固執し過ぎているかもしれない。これではいけない。千鳥はなえへと視線を送った。自分もあのくらい楽しもうと──。

当のなえは呑気に敵チームのキーパーに話しかけていた。

「よろしゅうお願いやんな！ウチのことは気軽に姫って呼んでな！」
「う、うん…？」
「なんならプリンセスなえでもええよ！」
「えっと……」

なえの押せ押せの姿勢に、のりかは戸惑いを隠せない。その姿に、千鳥はふふっと笑みを漏らすも、その隣の染岡は不安になったようで、険しい顔で「……面白くなる、はずだ。」とつぶやいた。

＊