第8話 白恋中の力 2 ページ17
＊
試合は続いていく。
DFは千鳥の指示でよく機能し、FWへの連携も確実だ。白恋は安定して試合を運ばせている。しかし。
「どけ！シュートを決めてやるぜ！」
一旦FWのアツヤへとボールが渡れば、後は彼の独壇場だった。敵に囲まれ、千鳥の指示がなければ、誰かにパスを出そうともしない。1人でゴール前まで走っていくアツヤに、チームメイトもたじろぐ。いつもの試合風景だった。
「いくぜ、兄貴！」
「うん、アツヤ！」
そんなアツヤのスピードについていけるのは兄の士郎だけ。ボールは士郎へ渡り、士郎はそのボールを上空へ蹴り上げる。そのボールをアツヤが再び蹴り落とすと、ボールは空中で氷のような冷気をまとい停止した。
「はぁああっ！」
「うるらぁっ！」
士郎とアツヤは雄叫びをあげ、回転しながらボールは向かう。そして、同時にボールを力強く蹴り出した。
「ホワイトダブルインパクト！」
ボールは豪雪のような勢いを持ち十勝ゴールへ向かう。
「大地の息吹ッ！」
十勝キーパーは地面に拳を叩きつける。すると、そこから巨大な岩壁が現れ、ボールを抑えようとする。
しかし、強烈なシュートの威力は抑えきれず、キーパーは「うわぁあっ！」と悲鳴をあげて吹き飛ばされてしまった。これで2点目。白恋は十勝を突き放した。
アツヤと士郎は口元に笑みを浮かべ、無言でハイタッチをする。アツヤは心の底から満足げだ。
一方、他の白恋メンバーは先ほどのようにはいかない。アツヤの独りよがりなプレーで決めたゴールに、喜んでいいものやら戸惑っているようだ。
(アツヤくん……)
やんちゃな笑顔でポジションに戻るアツヤの姿を、悲しそうな、心配そうな瞳で千鳥は見つめた。
結局、その後もう一度アツヤが1点を決め、試合は3-0で白恋の大勝利に終わった。これでFF地区予選は優勝、全国大会へ進むことができる。
白恋イレブンは「やったー！これで全国だっぺ！」「夢みたいだべ！」と喜びを分かち合っていた。しかし、その中で千鳥は喜びながらもいまひとつ浮かない顔だ。
(これで予選大会は終わり…今回は相手チームとの相性もあったし、安定して勝てた。でも、全国じゃきっと通用しない。早いうちに…早いうちになんとかしなくちゃ。)
千鳥は眉根を寄せ、ぐっと拳を握りしめる。
(わたしは勝つんだ、絶対に…。このFFで、絶対に優勝する！)
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作者名：いわき | 作成日時：2019年10月18日 0時
