第7話 円陣を ページ15
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「今日の試合は練習通り、パスを中心に攻めていきます。直接届けるパスではなく、味方を走らせる鋭いパスでいきましょう。それから、ディフェンスは敵へのマークを徹底してください。」
試合直前の最後の確認に、白恋イレブンはおう、と威勢良く返事をする。すると、真っ先にアツヤがピッチに駆けて行ってしまった。
「あっアツヤくん！」
「なんだよ、まだ何かあんのか？」
「そうじゃなくて、ええと……」
千鳥は一瞬口籠る。アツヤは不満げにしながらも、千鳥の言葉を待った。
千鳥は胸の前でぐっと手を握る。ここで自分が勇気を出さなければ…！
「ね、円陣、組もう！」
「はあ？」
唐突に飛び出した言葉に、アツヤは半目になる。千鳥の表情は真剣そのものだ。
「試合前に、みんなで士気を高めるの。やろうよ！」
千鳥は精一杯声を張り上げてアツヤに伝える。しかし、アツヤは千鳥をじーっと見た後、「いらねえよそんなもん」とそっぽを向いてしまった。
「あ、う……。」
千鳥はそれ以上何も言えなくて、口を噤んで俯いた。
アツヤにチームの人と仲良くしてもらいたい。けれどやはり自分の力ではそれは成し得ないようだ。千鳥が無力感からしばらく棒立ちしていると、白恋の選手、真都路が「千鳥ちゃん。気にすることないっぺ。」と優しく声をかけた。
「そうだっぺ！円陣なんか組まなくても、オラたちの気迫は十分だっぺ！」
「さあ、千鳥ちゃんも行くべ！」
続いて、白恋の選手たちは千鳥に明るく声をかける。それに元気をもらった千鳥は微笑みを取り戻して、ピッチへと走っていった。
(…それでも、いつかは……)
白恋の選手"全員"で円を作って、手を重ね合わせたい。けれど、今はそれは難しいようだ。
ならば自分のやることは、精一杯試合に集中すること。千鳥は表情をきっと鋭くすると、整列をした。
相手の十勝中のメンバーはみな緊張が顔に浮かんでいる。それもそうだろう。白恋中と十勝中、力量は白恋中が上回っているのだ。だが、下克上を受けることだってあるだろう。油断はできない。
挨拶を交わして、それぞれがポジションにつく。ピーッと試合開始のホイッスルが鳴った。
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作者名：いわき | 作成日時：2019年10月18日 0時
