第6話 予選決勝前 2 ページ14
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「そういや千鳥、この前兄貴と出掛けたとき美味そうなクレープ屋を見つけたぜ。千鳥も今度一緒に行こうぜ！」
「クレープ？本当！？行く、行きたい！」
千鳥が考えこむ前に、アツヤは千鳥に話しかける。千鳥はぱっと顔を輝かせてアツヤの顔を見た。そんなキラキラした千鳥の笑顔を見たアツヤは、自分も嬉しそうに口角を上げる。
「こら、アツヤに千鳥。試合前なんだからもっと緊張感持って。」
すると、今度は千鳥の右隣に座る士郎が2人をそう諫めた。しかし、そう言う割には彼は穏やかな笑みを浮かべている。
「そうだ、兄貴も一緒に行こうぜ」
「ボクの話聞いてた？全く……。」
士郎の注意も気にもせず、あっけらかんと笑うアツヤに士郎は溜息をつく。けれど、アツヤに「行かないのか？」と聞かれれば「行くけどさ」とさらりと返した。
そんな話をしているうちにバスは試合会場である十勝中に到着した。男女に分かれたロッカールームで準備を済ませ、いざグラウンドへと向かおうとする。
「千鳥」
グラウンドへ向かう廊下の途中、ユニフォームに着替えた千鳥にふと士郎は話しかける。
「士郎くん、どうしたの？」
「もう体調は平気なの？」
「士郎くんってば。風邪ならもう何日も前に治ってるのに。」
「うーん。風邪のこともそうだけど、また無理して練習してたんじゃないのかな、って。」
士郎の言葉に千鳥はギクリと肩を揺らす。図星だった。しかし、現にこうして自分は体を壊していないのだから、あれは無理な練習ではなかったのだと千鳥は自分に言い聞かせた。
「無理な練習なんかしてないよ。さあ、今日の試合も頑張るよ！」
千鳥はぱっと笑顔を作り、ガッツポーズを士郎に見せる。士郎は少しだけ心配そうな眼差しをしていたけれど、ひとつ小さく溜息をつくと、千鳥に笑顔を返した。
「頼りにしてるよ、うちの司令塔さん。」
「うん！……って、司令塔なんて恥ずかしいからやめてって言ってるのに。」
千鳥が少し顔を赤くして俯けば、士郎はくすくすと笑って「でも、ライセンスにも司令塔って書いてあるでしょ」と言った。
それはそうだけど、と千鳥が言い返そうとしたとき、集合の合図がかかった。
千鳥は少しだけ不満げにしながら、「行こう、士郎くん」とグラウンドへ駆けていった。
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作者名：いわき | 作成日時：2019年10月18日 0時
