纏う * こんぺいとう。 ページ5
『真っ直ぐ歩きなさい。ふらつくのは馬鹿の証拠よ』
私の尊敬する先生はいつだってそう言っていた。過去にパリコレクションを歩いた事のある実力ある先生はレッスンを初めてすぐ、出来ていない生徒に向かってそう言っていた。そうして次に私と目を合わせてくれる。
『彼女を見て。線の通りに歩けているでしょう』
『そこに客がいるように見えるでしょう』
『これが、歩くというものよ』
その先生が私に対してだけはいつも手本だと言っているかのような言い方だった。
だから信じて疑わなかった。
私もいつか、ショーモデルになれると。
「……それが、今じゃ歩けない馬鹿、か……」
目を落とした書類には『不合格』の文字。中学の頃から止まってしまった身長。女子生徒の平均より2、3センチ高いだけで前から数えても後ろから数えてもだいたい同じくらいのパッとしない真ん中ら辺の身長。
そのせいか専門学校に上がった今でもショーモデルとしての仕事が入ってくることはなかった。
プロポーション自体はちゃんと7等身。痩せているというよりも誰もが理想とする体付きを維持して、ブランドにあった体型に努力して合わせている。のにも関わらず私に声がかかる事はなかった。
今の時代、身長があれば大体の歩き方が不格好でも採用される。教育すれば直るものだから。
でも、どう足掻いても身長だけは舞台では隠せないのだ。
「Aさん。モデルの依頼が」
「ショーモデルですか??」
「あ……、いえ。雑誌の」
「……はい。喜んでお引き受け致します」
周りの人達はショーモデルを諦めて雑誌一本に決めた方が将来の為だという。けれど私は被写体になるつもりは無い。ちゃんと、動きたい。服を纏った上で最高の引き立て役になりたいのだ。
ショーの主役は他でもない服。衣類、衣装。
デザイナーやソーイングナーが心を込めて作り描いたそれを身にまとって実際に動いた時、ちょっとした動作の揺らめき、ライトの輝き、全ての一瞬が美しいあの空間に脇役として私は立ちたい。言わば動くマネキンになるのだ。
だから、絶対にショーモデルは笑ってはいけない。
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憧葛 - こんばんは、憧葛です!作品を読ませていただきました。いやもう本当にどれも神作ばかりで……素敵なお話をありがとうございました!これからも頑張ってください! (2021年12月7日 18時) (レス) @page38 id: e0ae3127c5 (このIDを非表示/違反報告)
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