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「な、なんで笑うんですか」
「はは、だって、かわいくってつい……」
そう言って心底楽しそうに笑った彼に、私は顔が熱くなるのを感じた。自分の顔からぷしゅーっという効果音が出そうなくらいの恥ずかしさ。
志麻さんって、いつもこうなのだ。私をからかって遊んで楽しそうに笑う。やってることが完全に男子高校生のようであるが、本当に楽しそうに笑うのでなにも言えなくなるのだ。
志麻さんの綺麗でくしゃりと笑う様子を見ていると、場違い感に思わず逃げ出したくなる。模範のように綺麗なEライン。雪を溶かしたように色の白い肌。綺麗な二重を彫った睫毛の長い菫色の目。通った鼻筋に、嫌味なほど整った顔。そんな顔の自分と違う世界にいる人が私を愛おしそうに見てくるのだ。
……勘違いしてしまいそう。
甘く煮詰めたようなその瞳に見つめられると、おかしくなりそうになる。
▽
▽
ボスに大体週に一回くらいの頻度で呼び出されて、三十分くらいお茶をして返されるという日々が続いていたある日のこと。
それは、飲み会の帰りの事だった。
いつも飲み会がある時くらいしか一緒にならない他の課の人が、追いかけてきた。この人は私がお酒が苦手なのを察してくれているのか、いつも気を使って私があまり飲まなくてもいいようにしてくれている人だ。確か名前は、営業部の折原さん。
でも彼が気を使ってくれても今日は運が悪くて、若い女性社員に酒を飲ませようとする少し面倒な御局様に捕まってしまい、私はこんなに飲んだことがない、というくらいのレベルでアルコールを摂取してしまった。そのため、足取りが覚束なかったのだろう。見てられないと思ったのか、私の体を彼は遠慮がちになりながらも支えてくれた。
ほんとに、優しい人だ。眠くて今すぐ寝てしまいそうだし、やっぱ私かなり酔ってるんだろうな。頭がぼーっとするし全然まっすぐ歩けないから、自覚はある。
「あの、Aさん、大丈夫ですか。えと、嫌じゃなければ僕家まで送っていきますから、自分の家どの辺か言えます?」
「ん、送ってくれるんですかぁ……」
「はい、さすがに心配なので……」
「おうち……どこだっけ……」
「えっ、ちょ、まって、Aさんまだ家聞いてないんですが!寝ないで!」
折原さんが必死でなにか言ってたのは覚えているのだけど、私の記憶はそこで途切れてしまった。多分、というか絶対寝てしまったんだと思う。この事件は酒が弱い人がアルコールをとりすぎるのはよくないと強く学んだ一件となる。
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憧葛 - こんばんは、憧葛です!作品を読ませていただきました。いやもう本当にどれも神作ばかりで……素敵なお話をありがとうございました!これからも頑張ってください! (2021年12月7日 18時) (レス) @page38 id: e0ae3127c5 (このIDを非表示/違反報告)
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