むすんでほどけて【コラボ企画】 (ページ30)

今日:3 hit、昨日:1 hit、合計:9,667 hit

＊ページ30

どうしてもヒヤヒヤするし、胃が痛くなる。何故って、何度か呼ばれているので分かってきたけれどこのボス、社長や理事などの重役の人物を当然のように顎で使うのだ。

ボスがその場にいた我が社の社長にお茶を出すように要求すれば、オシャレなティーカップに入った紅茶とお菓子が出てくる。貴族令嬢かなにかのお茶会ですか、というレベルのお菓子のクオリティに恐縮して何も手をつけられずにいる私を満足そうに見ながら、ボスはにこりと笑った。

若くて顔も綺麗で、まるで彼は私とは別の世界にいる人間みたいだ。いやあながち間違いじゃないし、こうして気に入られて呼ばれるのも彼の気まぐれなのだろうけど。

「仕事中にごめんな。でも俺夜は仕事あるから会いに来れなくてさ。許可はAの上司にもとってあるから、仕事は心配しなくてええから」

「あ、はい……」

機嫌のいいボスにとりあえずそう返事したものの、食事の正しいマナーとかよく分からないし、私は紅茶には口をつけることができても、お菓子には手を触れることすら躊躇ってできなかった。

だって怖いんだもん！

ボスの視線は真っ直ぐに私に注がれているのでまた内心で若干泣きそうになりながらも愛想笑いを作って紅茶を一口飲むと、ふとボスの後ろで社長たちがなにやらジェスチャーしているのが見えた。全くわからなくて呆けてしまうと、彼らは口パクで私にこう言った。

「お菓子も食べて！機嫌とって！」と。かなり必死な顔でやられるので圧に負けてしまって、とりあえずそこにあった小さな梨のタルトに手を伸ばそうとすると、ボスがお皿に取ってくれた。す、スマートだ。女性の扱いに慣れてる感が半端ない。

「ん、おいしい……」

今までも失礼だと思いながらも食べていいのか分からなくて出されるお菓子を食べれずにいたけれど、すごく美味しかった。甘く煮られた梨と、食感のいいタルト生地。シナモンの風味がいいアクセントになっていて、とても美味しかった。

思わず緩んでしまった頬を隠すことも忘れて残りも食べると、その一部始終をじっと見ていたらしいボスと目が合う。私はハッとして、恥ずかしくなって目をそらしたなった。だけどいつまでもこのまま見つめられ続けているのはちょっと……。

「ぼ、ボス」

「志麻って呼んで」

「あ、し、志麻さん」

「ん、なぁに」

「あんまり、見つめないでもらえると……恥ずかしいので……」

遠慮気味になってしまったせいで小さくなる声をなんとか絞り出してそう言うと、ボス……志麻さんは何度か目を瞬かせてからふっと笑った。