赤と黒のLiberations8

【今はまだ】3　☆ ページ39

「スケート？」

「うん。またトロントで練習しかないなって思って。」

いつまで？と聞けないもどかしさに、まるでそれが永遠の日常みたいに言うので、少し寂しくなる。

「つらい？」

「つらくない。てか俺スケート好きだもん。」

「好きこそ物の…ってやつだね。」

でも本人が選んだ道だから、何も言えないのだけど。

「絶対に王座奪還。」

「そんな顔で真面目なこと言われてもピンとこないよ。」

「え？」

「狐のお髭と耳が携帯のアプリ越しみたいで…ふふふ。」

「んもーっ！」

突然羽生くんが苦笑いしながら頬を手でごしごしする。今お髭のことは触れられたくなかったみたいだ。

「待って待って、綺麗なお顔が…。」

それをやめさせて、指先で濡らしながら撫でるように整えてあげる。あちこち違う方向を向いた髭とか、カッコ悪いから。

「つかさ。これAが引っ張ったら抜けないかな。」

「えー、それはちょっと…。」

せっかく綺麗になったのに、そんな力任せにして血が出たら嫌だ。

「試しにやってみて。」

「嫌だよ〜。第一、そんな簡単なら耳だってもう取れてるよ？」

「いいから。これで消えたら万々歳！」

それでも羽生くんは強引に私の手を取り、再び頬へと導く。

「痛くても知らないから。」

「軽くな、軽く。」

そしてまず右頬を、私の方へ向けて。
仕方がないので、言われるままお髭を一本、そーっと指でつまんで引っ張ったら…。

「痛った！痛ぇよ！！」

本気で手を振り払われて、なぜかキレられる。

「ほらぁ、だから言ったでしょ。」

「ちょっとでいいのに、思いっきり引っ張るからだろ。」

頬をすりすりしながら、私に睨みまできかせて。

「そんなに力入れてないのに。」

「うっせぇ。」

「……。」

自分から頼んできたくせに、なんて言い草だ。
あまりに理不尽なので、仕返しとばかりに耳を片方つまんでやる。もちろん狐耳の方。

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