赤と黒のLiberations8

【幸せな時間】4　★ ページ14

★羽生サイド

しまった。尻尾に触られたくない一心で、再会してまだ１０分も経ってないのに、いきなりお見合いのことを尋ねてしまった。
これはさすが怒られるパターンのやつなので、すぐに謝ろうと取り繕う。

「ごめん今の一旦…」

なし。と言おうとしたらAが目線を下にしたまま呟いた。

「…行かなかったの。」

「…えっ？」

今なんて…？声が小さくて良く聞き取れなかったけど、聞き間違えじゃなければ今、行かなかったって…。

「なんだかバカらしくなっちゃって、行くのやめたの。」

でも今度ははっきりと。Aが吹っ切ったように、乾いた息をはいて頷く。

「えっ、それまじかよ。」

「まじなの。」

「……。」

やめたって…。
あんなに真剣に向き合っていたのに、直前で約束を反故にするという想像していなかった結末に言葉を失っていると、Aがぽつりと事の顛末を語りだした。

「Ｓホテルのロビーで…偶然羽生くんのスケート見たの。そしたら、行けなくなっちゃった。」

少し気まずそうに苦笑いしているのだけど、全く状況が繋がらなくてすぐさま突っ込む。

「抽象的すぎて意味がわかんねぇ。」

「…だからぁ、羽生くんの想いが胸に刺さりすぎたの。」

「……。」

想いという言葉に動揺する。
それってまさか、お見合い前に俺のスケートを見て心変わりしたということ？
てことは、俺の願いが通じたのか…。やべ、顔がにやける。

「怒ってる…？」

膝に手を置き、Aがばつが悪そうな様子で、再会して何度目かの上目遣いで俺を見つめる。

「怒ってないけど…。」

むしろ喜んでる。
でもさすがにそれをあからさまに表現するのは違う気がして、ここはぐっと歯を喰いしばって耐える。

「色々ごめんね。さっきもなかなかメッセージ返さなくて。私もどうしたらいいのか分からなくて…。」

「そんなん気にすんな。」

「ほんと、バカだよね。」

目の前でため息と共にうなだれるA。
本人は相当落ち込んでいるみたいだけど、俺は絶対にこの決断を責めたりしない。

だって今、会わない選択をしたAが、こんなにも愛しくてたまらないから。

「でもさすがに親には怒られたんじゃねぇの？」

とは言え、ご両親や親戚の手前、弁明はしなきゃなんないだろう。

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