赤と黒のLiberations6

【オール】6　★ ページ25

「A。俺は自分の理想と思えるスケートが滑れるまで、引退はしない。何年かかるか分からないけど、それが生きていく上で一番大切なことだから。」

自分が思い描いているスケートの理想へ、どんなことをしてもたどり着きたいし、そのために色んな方向からアプローチしていきたいと思っている。

でも試合の数は限られてるから、作戦のバランスが難しいけど。

『羽生くん…。』

「Aには寂しい思いをさせてるなって思ってる。でもできうる限りのことをするつもりでいるから、絶対俺から離れないで。」

コウくんの所へいかないでほしい。

「わがままを言ってるのは分かってるよ。でも大人になれば知恵もつくし状況だって変わる。たくさんの方法の中から、一番いい形で未来へたどり着きたいから。」

そのための道は、決して一つじゃないはずだ。

『羽生くん…カッコいいね。』

自分の気持ちを吐き出したら、ふとAが感心したように呟いた。そしてさらにお褒めの言葉を貰う。

『カッコいい彼氏って、ときめいちゃうよ。』

「これからも、カッコいいとこだけ見とけよ。」

プライベートもスケートも。
ミスなんてない、完璧な形で世界にこの名をとどろかせてやる。

『俺のAでいて欲しいんだもんね。』

「は？」

そんな熱い決意を語る途中で、Aが話を冒頭に戻した。

『私のことが大好きなんだよね。気分いいなー。』

その、まるで俺の勘違いを嘲笑うかのような態度を見せられて、一気に羞恥心にかられる。

「はぁ？！忘れろ！全部記憶の中から消せ！」

『無理ー、もう聞いちゃったー。』

子供か！

「お前！ちょ、今からテレビ電話にするから切る！」

『え、どうして？』

「ムカついた。一回お前の間抜けな顔見ないと怒りが収まらねぇ。」

『ひどーい！』

「うるせえ。今日は寝かせねぇから朝まで俺にとことん付き合え。」

オールだ、オール！

『えー、こっちはまだ午前中だからいいけど、羽生くんが寝れないよ？』

「……。」

『それでもいいの？』

Aがしれっと現実を突き付けてくる。
そうだった…。感情的になるあまり時差を考えてなかった。

「いいし。Aの顔…見たい。」

そうして、なんとなく照れながらおもむろに通話を切って。
俺は迷うことなくテレビ電話のアプリを起ち上げた。





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