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『懐かしい……』
まだ若手も若手だった頃の、記憶を思い出したのは、初めて主人公を勤めたアニメの台本と、当時の彼からもらったネックレスが、出てきたから、だろうか。
というのも、新居に向けて引っ越しの準備をしている。数回引っ越しはしているが、どうしても捨てられないものが、こうして溜まっていて、先ほどからそのエリアに手をつけ始めてしまった。
………実家に送ろう。
「Aーー?これって、」
『っ、!?、』
「そんなびっくりしなくても」
手伝いに来てくれていた良平さんに、背中越しに呼びかけられて、思わずびくっとする。振り返れば、片手にタオルが握られている。
ドアの扉に手を置いたまま、私の手元に目線をやった良平さんが、私の前にしゃがんで、同じ目線になる。
「何の台本?」
『あ、私が初めて主人公を演じた時の、台本』
「へーーー!いつの?うわめっちゃ前じゃん」
『そりゃそうだよ、キャリアも長くなっちゃったし』
「ふふ、音瀬Aの原点ってことね?」
『大袈裟(笑)』
「ん?それは?」
『あっ、これはー、その時、おめでとうってプレゼントしてもらったの』
「へー!いいね、そういうの」
『……そう?』
「うん。素敵じゃん。それに、ずっと持っておくくらい、大切なものなんでしょ?」
『……うん。』
「ふふ、いいじゃん」
そんな言葉を発して去っていった、良平さんの背中を見つめて、心が暖かくなった気がして。そのまま箱に詰めた。
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ー 後日 木村と柿原
「柿原さー、」
「うんー?」
「Aにネックレスあげたことある?」
「え。何突然」
「いいじゃん」
「男の嫉妬は醜いよー?」
「うるせーな、どうなんだよ」
「あるよー、メインが決まった時とか」
「…………あー、そう」
「え。もしかして、まだ持ってんの」
「大事そーうに台本と一緒に持ってた」
「え、えー(笑)」
「ニヤニヤすんな」
「だって、嫉妬でしょ?」
「うるせー。でもいいなって思って、そーゆーの」
「俺いいでしょ?」
「あーーー、はいはい」
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作者名:シカク | 作成日時:2021年12月1日 20時