◆ ページ31
「ねぇなんでそんな固まってるの〜はやく中においでー？」
玄関から動けずその場に突っ立っている私に既に靴を脱いでいる黒崎さんは笑いながら呼びかけた。
分かってはいた。九条家より地位の高い黒崎家の人間の住居が豪邸じゃないわけないと。
なんなら九条家もかなりの豪邸だけど、でも、
(やっぱり慣れない…！)
九条宅は自宅と化したためまだマシだが、それでもつい最近まで庶民だったのだ。感覚が抜けないのは勘弁してほしい。
とはいえずっと玄関に留まっているわけにもいかないので腹を決めて靴を脱ぎ、「…お邪魔します」と呟いた。
黒色の、大理石のようなもので造られた玄関。
そこに暖かみのある照明が照らされていて、品のある空間を創り出している。
まだ玄関しか入っていないが、このマンションが所謂高級マンション、というのはすぐに分かった。
私が靴を脱いだのを確認すると、黒崎さんは笑みを浮かべたまま、「どうぞどうぞ、」と言って手間のドアを開いた。
彼に続いて中に入ると、どうやらそこは部屋ではなく廊下のようだった。それも相当長くて、本当にここはマンションの一室なのかと疑いたくなるほどだ。
「あとで部屋紹介するね、Aもここに住むことになるんだし」
廊下を歩きながら黒崎さんは楽しそうに笑った。住むことになる、というのは結婚したら、ということなのだろうか。
私は彼との婚約を破棄するために来たのだけど、部屋に入っていきなりその事を言うのもどうかと思うが、でもだからといって「そうですね」だなんて言うのも無責任な話なので曖昧に笑ってみせた。
我ながら狡い性格をしている。
…黒崎さんが楽しそうだから、だなんてほんの少しの、どうでもいいに分類される程度の理由だ、そうでないと困る。
「じゃあどうぞ〜入って入って」
廊下の一番奥の部屋に着くと黒崎さんはドアノブを捻った。がチャリ、と音を立てて開いた先の光景に、私は思わずわ、と声をあげた。
広々とした空間に、黒いフローリングや黒中心の家具といった黒が基調となった部屋。
そして極めつけはこの絶景。天井間際まで広々と伸ばされた窓越しに見える夜景。あんなに高く思えたビル達もここから見れば小さなものに思えてくる、それぐらいこの部屋は高い所に位置しているんだと実感させられた。
「どう？気に入った？」
わくわく、という言葉が似合うぐらい弾んだ声で黒崎さんは私の顔を覗き込んだ。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 644人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「歌い手」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
時雨(プロフ) - おもちもちもちさん» コメントありがとうございます!!そう言っていただけるとこちらのモチベーションにも繋がりますのでとても嬉しいです(; ;)もう少しでまた更新できそうですのでそれまでもうしばらくお待ちいただけるとありがたいです^^* (2020年2月17日 17時) (
レス) id: 27a105a2bf (このIDを非表示/違反報告)
おもちもちもち - やっっっっべぇめっちゃ好きです…(俺の語彙力飛んでった←)更新楽しみにしてるんで、無理のない程度に頑張ってくださいね！(？) (2020年1月17日 1時) (レス) id: b8721ff069 (このIDを非表示/違反報告)
時雨(プロフ) - さくりさん» 返信遅れてすみません…!!コメントありがとうございます!!もう少ししたら更新が出来そうですので、それまでお待ちいただけるとありがたいです…!! (2019年12月5日 21時) (レス) id: 27a105a2bf (このIDを非表示/違反報告)
さくり - 初めてコメントをさせていただきます〜、さくりです！この話自分にドストライクすぎてヤバいです…！更新待ってます！！ (2019年11月9日 17時) (レス) id: 11e1fd3e2e (このIDを非表示/違反報告)
時雨(プロフ) - ぽんずさん» コメント＆通知登録ありがとうございます！そう言っていただけて嬉しいです、これからも頑張りますね！ (2019年7月15日 21時) (レス) id: 27a105a2bf (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
