反転した世界で ページ2
「彼が黒崎輝さん。貴方の婚約者よ」
え、と思わず声が漏れた。
今日は朝から義母に大事な会食があるから着いてこい、と言われていた。
彼女が私を連れていくだなんて珍しいな、と思ったがどうせ養子についての挨拶だか何かだろう、と深くは考えていなかった。
しかし、いざ来てみるとそこには身なりを整えている中年の男女二人と高級そうなスーツを見に纏っている私と同世代であろう男性がこれまた高級そうな長机に一列に座っていた。
普段は冷たい瞳で私を見下ろしていた義母が別人のようにニコニコと笑みを浮かべている。
状況が理解出来ずに挨拶も忘れて呆然としている私にすっと椅子から立ち上がったのは黒崎輝、と紹介された青年だ。
「初めまして、黒崎輝と申します。」
よろしくお願いします、と言ってニコリと笑う。
背が高くて、顔の造形も完璧なまでに整っていて現実離れした美しさをもつ男だった。
私が馴染めない貴族が暮らしてそうなこの華やかな空間だって、絵になっている。
「く、九条Aと申します…」
訳もわからぬまま挨拶を返すと恐らく黒崎家の当主であろう男性が、私達に着席を促した。
黒崎家、といえば私達の中じゃ知らない人はいないぐらいの名家だ。
企業を幾つも持っていてその資産は計り知れない。つまり彼はその御曹司ということになる。
ちなみに九条家もそれなりに知れ渡っているので普通なら黒崎家と面識はあるはず。しかし私は彼らと対面するのは初めてであった。
何故なら…
「貴方と会うのは初めてですね、Aさん?」
「は、はい…」
「貴方のことは噂に聞いてましたよ。何でも、九条さんの所の遠い親戚だとか…でも、その立ち振る舞い方、庶民そのものですね?
…まぁ、“養子”なら仕方ありませんが」
彼の母であろう高級ブランドのドレスを見に纏った婦人は私を上から下まで見回したあと鼻でフッと笑った。
その一言に胸がちくりと痛くなる。
そう、私は九条家の正統な血筋を引いている訳では無いのだ。
私の家はごくごく普通の一般家庭。つまりは庶民だ。そこで普通に過ごしていたが、大学三年生になった今年、両親が突然交通事故で他界したのだ。
兄妹がいなかった私は頼れる人がいなく、奨学金制度を利用して大学に通いながら空いている時間をバイトに打ち込む、という生活を送っていた。
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時雨(プロフ) - おもちもちもちさん» コメントありがとうございます!!そう言っていただけるとこちらのモチベーションにも繋がりますのでとても嬉しいです(; ;)もう少しでまた更新できそうですのでそれまでもうしばらくお待ちいただけるとありがたいです^^* (2020年2月17日 17時) (レス) id: 27a105a2bf (このIDを非表示/違反報告)
おもちもちもち - やっっっっべぇめっちゃ好きです…(俺の語彙力飛んでった←)更新楽しみにしてるんで、無理のない程度に頑張ってくださいね!(?) (2020年1月17日 1時) (レス) id: b8721ff069 (このIDを非表示/違反報告)
時雨(プロフ) - さくりさん» 返信遅れてすみません…!!コメントありがとうございます!!もう少ししたら更新が出来そうですので、それまでお待ちいただけるとありがたいです…!! (2019年12月5日 21時) (レス) id: 27a105a2bf (このIDを非表示/違反報告)
さくり - 初めてコメントをさせていただきます〜、さくりです!この話自分にドストライクすぎてヤバいです…!更新待ってます!! (2019年11月9日 17時) (レス) id: 11e1fd3e2e (このIDを非表示/違反報告)
時雨(プロフ) - ぽんずさん» コメント&通知登録ありがとうございます!そう言っていただけて嬉しいです、これからも頑張りますね! (2019年7月15日 21時) (レス) id: 27a105a2bf (このIDを非表示/違反報告)
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