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「A、暑くない?寒くない?大丈夫?」
「あー…うん、大丈夫」
高級そうな素材、高級そうなシーツ、座り心地は抜群によく逆にそれが余計に緊張感を引き出し、私は助手席でぴん、と背を伸ばして膝の上で拳をぎゅっと握って座っていた。
その隣、つまりは運転席でハンドルを握っている彼はやけに私のことを気にしてさっきから同じことばかり聞いてくる。
正直高級車に乗っているということで、庶民感覚が抜けない私はそれだけで頭がいっぱいなので室内温度など考える余裕がないのだけれど。
…いや、違う、ほんとは、そんな理由じゃない。
九条家の養子になってから、こういった高級車に乗る機会は何度もあった。流石に回数を繰り返していれば嫌でも慣れていくはず。
(…黒崎さんと、二人きりだから?)
運転手が黒崎さんだから、この車内には二人だけ。そんなシチュエーションが私を緊張させているのだろうか。
(まるで、私が黒崎さんを意識しちゃってるみたい…)
握ったままの手が、じんわりと汗ばんでいくのを感じた。
すると、私の心境を読み取ったかのように黒崎さんは正面を向いたまま口を開いた。
「A、もしかして緊張してる?」
「えっなんで…まぁ、してるけど…」
「やっぱり〜Aさっきから話し方がぎこちないやもん」
あはは、とくしゃっとした笑顔を見せる彼にひきつられるように自然に体から力がゆっくりと抜けていくのが分かった。
その流れに身を任せるようにゆっくりと背もたれに寄りかかると、硬すぎず、柔らかすぎずの丁度いい感触が背中にじんわりと伝わった。
ある程度緊張が和らいだところで、私はさっきから思っていたことを彼に話した。
「黒崎さんって免許持ってたんだね」
「親がとっておけとっておけうるさかったからってだけやで。普段はそんな車運転しないし。
あ〜でも、それのおかげでAと二人きりでドライブ出来たんやから、やっぱとっておいて正解やわ」
「なっ…んで、そういうこと、すぐに言うの」
「なんでって言われても、本心やし…えっもしかしてA照れてんの?」
「照れてない!!」
え〜絶対嘘だーって笑いながら言う黒崎さんも、嘘じゃないって若干拗ねながら言う私も、あの会食の時と比べるとぽんぽん会話も弾んでいて、少しづつ、いい関係を築けている。
そして居心地の良さを私自身の手で壊すということを改めて実感し、複雑な心境になりながら黒崎さんと会話を続けた。
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時雨(プロフ) - おもちもちもちさん» コメントありがとうございます!!そう言っていただけるとこちらのモチベーションにも繋がりますのでとても嬉しいです(; ;)もう少しでまた更新できそうですのでそれまでもうしばらくお待ちいただけるとありがたいです^^* (2020年2月17日 17時) (レス) id: 27a105a2bf (このIDを非表示/違反報告)
おもちもちもち - やっっっっべぇめっちゃ好きです…(俺の語彙力飛んでった←)更新楽しみにしてるんで、無理のない程度に頑張ってくださいね!(?) (2020年1月17日 1時) (レス) id: b8721ff069 (このIDを非表示/違反報告)
時雨(プロフ) - さくりさん» 返信遅れてすみません…!!コメントありがとうございます!!もう少ししたら更新が出来そうですので、それまでお待ちいただけるとありがたいです…!! (2019年12月5日 21時) (レス) id: 27a105a2bf (このIDを非表示/違反報告)
さくり - 初めてコメントをさせていただきます〜、さくりです!この話自分にドストライクすぎてヤバいです…!更新待ってます!! (2019年11月9日 17時) (レス) id: 11e1fd3e2e (このIDを非表示/違反報告)
時雨(プロフ) - ぽんずさん» コメント&通知登録ありがとうございます!そう言っていただけて嬉しいです、これからも頑張りますね! (2019年7月15日 21時) (レス) id: 27a105a2bf (このIDを非表示/違反報告)
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