無垢な君は檻の中【utit】

この心、立ち入り禁止/そらる ページ14

あぁ、まただ。





隣の席の男子と楽しそうに談笑しているAを見て胸がズキンと痛む。


Aは俺の彼女。だというのにあいつは当たり前のように俺以外の男と話す。俺以外の男に笑う。


俺は頬杖をついてさっきからAと馴れ馴れしく接している男子を睨みつけた。


一体なんなんだあいつは。Aが優しいからってデレデレしやがって。AもAだ。お前自分が誰のものか分かってんの？

優しいのは美点かもしれないが俺以外にしたら意味が無いだろ！


ああもう、いらつく。Aは俺のなのに。Aの彼氏は俺なのに。


Aは可愛くて、性格も良くて、男女問わず人気者。そんな子と付き合えたのがそもそも奇跡なんだと言われればそれまでだが、それでも俺から離れないでほしい、だなんて願ってしまう。


一度手に入ったら、離したくない。

その味を占めてしまったから、それの甘さに気づいてしまったから今日も俺は君という蜜に溺れ続ける。


それぐらい、君が好きなんだ。


「そらるくん？おーい、聞こえてますかー？」


ふいに耳元で優しい口調をした声が聞こえた。

え、と振り向くとニコッと笑うAがいた。慌ててAの机を見ると、そこにはいつの間にか誰もいなくなっていた。

「どうしたの？そんな怖い顔しちゃって」

「いや、別に。考え事してただけ」

まぁ嘘ではないよな、なんて自分一人で勝手に納得する。


「あ、でも今はそんな顔してないね」

「え？」

「優しい顔になってる」


そう言われて自分の顔に力が入っていないことに気づいた。

俺はどうやらAと話すのが本当に好きらしい。

「そらるくんってさ、大人っぽいよね」

「大人っぽい？俺が？」

「うん、さっきみたいに怖い顔してる時も今みたいに優しい顔してる時も大人っぽさだけは残ってる。

…でもね、私そんなそらるくん好きだよ」

そういってAははにかんだ。


彼女は俺の事を大人っぽいと言った。実際にはかけ離れているのに。付き合って1年たとうとしてるのに未だに余裕が持てないでいるのに。


けれど、Aは大人っぽい俺が好きだと言った。ならば俺はそのイメージを崩さないようにしよう。



本当は君が男と言葉を交えるだけでも嫌だってことも

俺だけに笑ってほしいってことも

俺だけの君でいてほしいってことも


全部全部、鍵をかけてしまおう。


「…俺も、Aが好き」


この溢れ出てくるどす黒い欲望を必死に押さえつけるくらいには、ね。

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